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甘美な記憶とともに迫るやるせない焦燥感…米映画『ドリーミン・ワイルド』

過去を振り返るということは、少し色あせた甘美な記憶と一緒に、そこにつらなっている「悲しみ」「悔恨」といった痛みも俎上にあげることでもある。

一度、忘れ去られていたロックミュージシャンがネットでバズったのをきっかけにカムバックを果たすという、今風の夢のあるストーリーとして始まっていくこの作品は、むしろ、最初の想像とは違い、過去の痛恨の側面に焦点を当てる。人生は、だいたいが思うようにいかないのだ、という真理を突きつけられる。

10代でロックバンドを結成した兄弟。農場主だった父が資金を投じて製作したアルバムは鳴かず飛ばずだったが、その40年後に人気が出て、米西海岸シアトルのクラブで「復活コンサート」を行うところまで、話がとんとん拍子に進む。

ドラマーだった兄は、音楽の道をはやばやとあきらめ、田舎で家業の農園を継いでいる。当時、才能を高く買われていたボーカル兼ギタリストの弟は、メジャーにはなれなかったものの、妻とバンドを作り、都会でスタジオ経営をしながら細々と音楽活動を続けている。

カムバックは、兄にとっては当時の楽しい思い出を振り返ることができる気楽な機会だったが、まだ音楽をあきらめていない弟にとっては、果たせなかった夢につながるかも知れない真剣勝負の場だった。このギャップが仲が良い兄弟の間にあつれきを生んでしまう。

大人の真剣勝負とは、子供の頃に描いた夢と、今ある現実のギャップを突きつけられる過程でもあるのだろう。弟にとって「復活」とは、そんな人生をかけたピリピリとした緊張感に満ちた勝負に引きずりこまれることでもあった。そこがミュージシャンとして凡庸だった兄とは違った。有望視されてメジャーデビューの一歩手前まで行ったという過去を忘れていない弟にとって、音楽は今も「自分の人生そのもの」だった。

誰もが人生の成功者になるわけでもない。いや、むしろ大多数は、敗れ去った経験を、おりのように心の中に抱えたまま、年を重ねていくことになる。そんな人生の曲がり角をすぎ、焦燥感を抱く弟役を、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー主演男優賞を取ったケイシー・アフレックが好演している。

『ドリーミン・ワイルド』は、来年1月31日、東京・渋谷のTOHOシネマズ・シャンテほかで公開が始まる。



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