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独立国家 "KAGOSHIMA"

ふらっとひとりでリュックを背負って羽田から鹿児島へ飛んだ。

大学生最期の春休み。海外旅行へ行こうとも思ったが、いかんせん航空券が高すぎる。それに国内旅行であれば全国旅行支援割が適用される。大学の友達・バイト先の友達・家族といったあらゆる人たちと旅行にも行きたいので、一人旅にそうそう大金ははたけない。まあ、端的に言うと妥協です。

だが鹿児島へ降り立つとそこは異国だった。海外旅行へ行く必要はない。KAGOSHIMAは日本語が公用語の独立国家のようだった。

日本語が公用語といっても飛び交う日本語のイントネーションたるや。耳に入って来る聞きなれない日本語たちにこれが薩隅方言か!とテンションが上がった。

ただ、期待していたほどのクセはそんなになく少し寂しい気持ちになったのも事実。男性の一人称は「おいどん」で統一されていると思っていたし、語尾は老若男女問わず「ごわす」だと期待していたのだが、裏切られる結果となった。

後日、鹿児島出身の知り合いに方言について聞いてみたが、そんな「おいどん」・「ごわす」の使い手は田舎のおじいちゃんくらいだという。ディープなKAGOSHIMAを味わうには市街に留まっていてはいけないみたいだ。

言葉以外でいえば、公共交通機関におけるICカードが関東とはまるで違う。SuicaやPASMOを使える場所は殆どなく、ラピカ(Rapica)という独自ICカードが一番普及していた。

「Ride And Pay Intelligent Card」の頭文字をとって名付けました。「らくらく、ピッ、と乗れるカード」の意味も込められています。

鹿児島市交通局

と鹿児島市交通局のホームページに記載されていたが、関東人からすればSuicaとPASMOが一番「らくらく、ピッ、と乗れるカード」であることは間違いないだろう。そこらへんを勘違いしてほしくないものだ。

日本の中央集権体制はICカード視点でいえば然程機能していないように見える。むしろ地方分権的だ。SuicaかPASMOで統一してくれや!と思ったが実はKAGOSHIMAには先進的な一面も存在した。

路面電車に一度乗車したときのこと。そこでは先ほどのラピカ以外に、「visaでタッチ」をすることで乗車できるシステムがあったのだ。

アメリカやイギリスではSuicaやPASMO(あるいはラピカ)みたいにクレジットカードをかざすだけで公共交通機関を利用することができるのが多いことは知っていたが、まさか鹿児島にあるとは思いもしなかった。おそるべし、KAGOSHIMA。

ーーー

鹿児島に訪れたからには桜島へ上陸しようと思っていた。旅の最終日に市内から桜島へ15分ほどで移動できるフェリーへ乗船した。運行間隔も15分から20分くらいで、一本乗り過ごしても全く問題ないありがたい船だ。さらにありがたいことに、片道の運賃はわずか200円。

群青色の海を駆け抜けるフェリーがどんどんと桜島へ近づいていくその様だけでも心弾む体験なのに、200円とはいくらなんでも安すぎる。間違えて東南アジアに来てしまったような物価だ。

出航直前のフェリーにて。
どんどん大きくなる桜島。

ちなみにタイタニックに憧れて1人、3階のデッキみたいなところで風を浴びていたが、2月ということもあって割に寒い。もちろん脳内では「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」が流れていた。沈没しないことを祈って。

ともかくも冬は鹿児島とはいえ寒いので室内でゆっくりと桜島を眺めることをおすすめします。

運賃は後払い。桜島港へ到着後、館内の入り口みたいなところでお金を支払う。財布を確認したところ、小銭がなかったため現金以外の方法で支払いたいと思っていた。

桜島フェリーは市内の公共交通機関と比べると割にキャッシュレス決済は充実しており、僕はフェリーを全体の5番目くらいで降り速足でその改札口へ向かった。

「QUICPayで」
「はいはい、ちょっと待ってね」
かんじのいい、帽子をかぶった限りなくおじいちゃんに近いおじさんが対応してくれた。

「えっーと、クゥイックペェイだから、これをこうして…あれ、こうで……」
彼はぶつぶつと呟きながら機械を操作しているが、いっこうにそれが動く気配はない。

その間、100円玉2枚を握りしめた乗客たちが続々と改札を通っていく。
「お、これでいけるかな。こちらにお願いします」

おじさんの操作は間違っていないようだったが、クイックペイなんて鹿児島ではほとんど使われていないのではないかというくらい、読み込みに時間がかかる。

僕がスマホをかざしているときも、続々と現金の人たちが改札を通る。時折り、ラピカ所有者もスムーズに改札を抜けていく。

「QUICPay」とは言うものの、どこが「クイック」なんだこれは!
キャッシュレス決済は時間のかからないものだと思っていたが、いかんせん時間がかかりすぎている。 

僕の後ろにはキャッシュレス派の人たちが3人並んでいたから、彼らは僕よりも時間を要したことになる。

しかしここは鹿児島。東京とは違うゆっくりとした空気というか時間が流れている。別にキャッシュレス決済で2分時間を要しても、現金派の人間に馬鹿にされても(されていない)、ラピカ所有者が鼻を伸ばしていても(割りにあるかも)、いいではないか。

「クイックペイ!」
ようやく機械が作動したらしく、おじさんが笑顔で「ありがとうございました。いってらっしゃい」と聞きなれないイントネーションで言った。

この鹿児島特有のイントネーションとゆっくり流れゆく時間が、おいどん、とっても好きでごわす。








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