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ひとり、スリランカを旅して

入国、そして困惑

一人旅というのは、何だかハードルが高いものであるような気がしていた。とはいえそれは年齢と場所によるもので、僕のはじめては中学3年生のときの横浜の日帰り一人旅だった。

電車に乗ったことなんて数えるほどしかなかったから、1人で横浜まで辿り着けるのか不安でいっぱいだった。鹿児島とかの地方から横浜となれば話は変わってくるが、小田原という同じ神奈川県内での移動で心臓がバクバクだったのだから、飛んだ小心者である。

23歳になった今はほとんど毎日横浜へ電車で通っているのだから(大学院が横浜にある)、今では考えられないことだ。

だが、当時としては横浜まで1人で行けたことに達成感を覚えていた。

羽田空港からクアラルンプールを経由して、スリランカのバンダラナイケ国際空港に到着したときも全く同じ心境だった。とりあえずここまでは一人で来れた。

スリランカを旅したいと思った理由はさまざまある。それは、世界遺産を観るため。南アジアを感じたいため。どのような世界なのかをこの目で観てみたかった。そして、スリランカは旅慣れない自分にとってギリ行けるか行けないかといったちょうど狭間にあるような国だった。

インドに行くにしてはまだそんな度胸がないし、東南アジアなら軽い気持ちで行けてしまう。スリランカ一人旅は「自分試し」でもある。

旅はここからだ。空港に着いたのは午前10時頃だった。

スリランカのこの空港は日本の空港やタイ・バンコクの空港とは違って、コロンボ市街行きのバスが非常に分かりにくいのである。

とりあえず歩けばバスがあるだろうと、換金・SIMカードの購入を終えてすぐに外へ出た。ムワッとした温かな湿度が迎え入れる。

日常においては蒸し暑さとは不快感しか覚えないはずであるが、非日常における蒸し暑さはテンションを引き上げるものである。

天気は小雨模様。タクシードライバーたちからひっきりなしに声をかけられる。

「ヘイ、タクスィーー!」

ノーサンキューと断りを入れてバスを探す。いや僕の視界にバスは停まっていないし、いっそのこと彼らに聞いてみよう。僕は中学3年生くらいのやさしい英文法でコロンボ行きのバスがどこにあるのかを聞いてみた。

「バスはお休みだよ。なぜなら今日は祝日だからね。ほら、タクシー乗って行きなよ。キャンディーまでなら50ドルで行ってあげるよ」

そんなわけあるか。自分の利益のために嘘をついている気がして、僕は彼を無視してその場を去った。

「ヘイ!ハロー!ヘイ!」

彼に後ろから呼ばれたが、振り向いたら負けだ。僕は異国の知らない土地を彷徨うことになった。バス停のような場所が見えたから、そこへ向かう。すると今度は違うトゥクトゥクドライバーから声をかけられた。僕と同じくらいの年齢の若くて感じのいいお兄ちゃんだった。

「どこ出身?」
「日本!」

「日本かークールだね。で、コロンボに行くの?」
「そうだけど」

「そのバス停はコロンボ方向じゃないよ。だからさ…」

あ、こいつも嘘つきドライバーか。僕は彼を無視してバス停へ歩いた。しかし、執拗にクラクションを鳴らしてくる。

「ヘルプでしょ!聞いて!まじだから」

とりあえず聞いてみる。どうやら本当にそのバス停からはコロンボ行きのバスは出ていないようであった。

「300ルピーでバス停まで連れて行くよ」
トゥクトゥクドライバーの商売が始まる。ちなみに1ルピーは0.5円ほどなので、150円。まあ安いとはいえる。

「ここからバス停まではどのくらいの時間がかかるの?」
「5分くらいかな」

「200ルピーにしてよ」
50円安く値切ってみた。

「わかった。乗りな!」
交渉成立で彼はトゥクトゥクを飛ばした。雨が降っていたし、バス停の場所はインターネットや『地球の歩き方』でどれだけ調べても出てこないから、妥協したのだった。

トゥクトゥクに乗ってから5分くらいでバスターミナルらしき場所まで辿り着いた。トゥクトゥクに乗っている間に、何度も「このままコロンボまで行かないか。3000ルピーでいい」的なことを言われたが、頑なに「By bus」と答え続けた。バスターミナルまで連れて行ってくれたのでどうやら折れてくれたみたいだ。

200ルピーを渡すと、コロンボ行きのバスを指差して教えてくれた。

「グッドラック!ボーイ!」
トゥクトゥクのお兄さんが右手の親指を立てて僕に笑顔でそう言った。

バスの前には中年のガタイのいいおじさんが立っていた。

「コロンボに行くか?」

おじさんに目を合わすと察してくれたのか、僕に向かってたずねてきた。

僕は「イエス!」と言って頷くと、スーツケースをバスの中に入れてくれた。マイクロバスで、中はエアコンが効いていて涼しい。車内には謎の音楽がかかっている。陽気でポップなリズムである。既に7割ほどのスリランカ人が乗車していた。外国人は見た感じ僕だけだ。外国人観光客はタクシーで市街地まで行くのがポピュラーなのだろう。

とはいえ、このバスは650ルピー。トゥクトゥク代合わせても850ルピーだから、3000円が相場のタクシーの三分の一以下である。

バスの出発までは20分ほど待った。乗客が満員になってから出るシステムなのだろう。効率がいいのか悪いのかよく分からない。

バスは高速を通って1時間かからないくらいでコロンボのバスターミナルに着いた。バスは抜かれることなく、あらゆる車を追い越して行った。永遠に追越車線で飛ばしていく姿は、箱根駅伝の柏原竜二を思い出させる。速い。速すぎる。しかしシートベルトはないから、急ブレーキをかけたら乗客は全員吹っ飛ばされることだろう。

こんな異国の地で死にたくない!事故らないことを必死に願ったが、そんなことは無論杞憂である。

コロンボに着いた僕は、バスを降り、5分ほどGoogleマップにしたがってコロンボフォート駅に来た。列車に乗り換え、そのまま古都キャンディを目指す。

コロンボフォートレールウェイステーション


(つづく)

「押すなよ!理論」に則って、ここでは「サポートするな!」と記述します。履き違えないでくださいね!!!!