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2024年6月の記事一覧

季節の死

人が夏を見ているときに
自分は春を見ています
 
人が秋を見ているときに
自分は夏を見ています
 
人が冬を見ているときに
自分は秋を見ています
 
人が春を見ているときに
自分は冬を見ています

季節の死体を
見ています

ラムネ瓶

汗かく瓶のラムネのビー玉が
畳の上で朝日を浴びて
僕はそのきらきらを
ぼんやりと見ている

持てば冷たく
ころんと透明が鳴る

始めないことの美しさとは
こういうものではないかと
飲み終えた瓶を見ながら
汗を拭う

ナスの頭

切り落とされたナスの頭が
もうそれ以上老いることなく
ゴミ捨て場のすぐ脇で
すうすう眠っておりました
 
起こしちゃいけない
そう街灯が
月の光を力強く遮って
でも虫たちはその濃い色を
気にすることなく話しています
 
淡い夜風に溶け込む寝息はしわしわ鳴って
そのしわしわが私の喉へ
手を突っ込みひゅうひゅうひゅうと
息を引っ張り出すのです

非存在への愛

想像と観念を愛することができてしまう
だから子どもは産まないと
そう空想は言いました

本当に大切なもの
それが遠くにあるのなら
手繰り寄せようとなんてせず
あるがままに遠ざけておくと

存在しないものを愛せるはずがない
なんて言われても空想は微笑む
存在しないものしか愛せないのですと

もし存在するものを愛しているとすれば
それは全て自己愛ですと
空想は絶えず微笑むのです

成れの果て

青くて若い夏の
細くて熱い腕に
後ろから抱きつかれながら
道を歩けばカマキリが
胸で口づけするように押しつぶされている
 
汗のとろりという声は
ほとんど聞こえず蝉の声だけが響いて
淡く揺れる灰色に
黄緑がよく映えている
 
あれは自分の成れの果て
生誕を否定した自分の
 
踏みつぶされた言葉となって
夏の燃える足元で
ぎらぎらと濃く溶けていく

ふらふらとやってきた目玉に
じっと見つめられながら

夕方

太陽がうなだれて
その金色の髪が
やわらかく広がっていく
 
その毛先をくすぐったがる
モザイク窓の黄緑の声が大きい
 
扇風機と戯れつつ
葉擦れの笑声を聞いている
悲しそうに微笑みながら

空想の中の
その人

カゴから選ぶ

カゴから選ぶ
好きを幸せを
 
そうして腕の中には
自分らしさがいっぱい
 
カゴの中身は補充されて
くるくるゆったり
変わる変わる
 
そこから好きに選んでいい
選んでいいけれど
カゴ以外から選んだら
自分らしくはありません

二十四

二十四という数字のなかの
最初の十六から二十
その大半が否定で
いくつかが肯定
あとの残りが
それらを超えた
空想の数字
奪われたものに
近づける数

共謀

言葉を積み上げてつくられた舞台
その上で動き呼吸する存在を
今日も光で追いかけ照らす