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2021年10月の記事一覧

真実

 真実はその一切を簒奪された。今や目玉の好みが真実を騙り、可能性の半身が影武者として真実を演じている。死を逃れた真実は流浪の身となった。同じように流れている肉の目に真実は映らない。仮に真実がその名を訊かれ、本当の音を口にしようものなら、せせら笑いと嘘つきが響く。怒声が石という衛兵を駆り立てるだろう。偽りの君主による圧政。こぶしに残っていたわずかな自由さえ、完全に奪われてしまった。けれど肉は気づかな

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可能性

可能性に恋しちゃってて
その片面しか見ることができない

可能性可能性って
名前をたくさん呼んでみては
とろとろ表情溶かしてる

でも愛してるわけじゃないから
可能性の裏側は見ないし
仮に見えても見てないふりして

きらきらしてる面だけが
可能性ってものなんだって
そう信じて信じられてて
信頼なんかしてされちゃって

可能性は愛されてない
ただ一方的に好かれてるだけ
見やすくて心地よい片側だけが

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自分で決めたつもりになって
ほんとはみんなに倣ってる

考え巡らせてるつもりでも
解はとっくに用意されてる
見直しなんてされない答えが
その解き方をなぞってるだけ

きらきらしてる言葉の光に
こっちだよって誘導されて
炎のなかへと飛び込み消える
みんなと一つに溶け合い消える

自分なんてものはない
すでにあった意思を意識を
ただ自分自分と呼んでいるだけ

決定なんてしていない
ついていってるだけの

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ほんと

ほんとを書こうとした
最初は書いてたつもりだった

でも気づいたら
言葉は僕になっていた
詐欺師の僕になっていた

僕の書く言葉は声は
どれも偽という漢字一文字の
羅列に過ぎない
あるいは光

ほんとは書けない

ほんとは言葉にした瞬間
消えてしまうんだから

だからもし
もし書けるとしたら
嘘か理想か
あるいはレプリカ

ほんとのまねごと

残雪

かげに抱かれたけもの道の
隅に溶け残ってる濁った雪を
ひざの手首の鳴りと一緒に
ひょいとつまんで口に含んで
ざらつきぺっと吐き出した