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2021年2月の記事一覧

使者よ

使者よ
幸福感の使者よ
あなたは謳っていらっしゃる

この世にぶら下がっている果実の甘みを

ですがわたくしには
それが甘いとは感じられないのです

使者よ
実は落ちて腐るのです
その実りが
落下が腐敗が
何かをもたらすのは偶然なのです

あなたやわたくしそれ自体が
まったくの偶然であるように

使者よ
結実だけでなく
傷みもまた何かをもたらしてくれるからと言って
腕を広げて抱き締めるのですか

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冬の歳

年末に
ふっと吸った冬の歳は十六で

年明けに
ひゅうと飲んだ冬の歳は七つであった

そうして
やわらかい日差しに絡んだ冬は
三つである

かと思えば
宵に浅く横たわる冬は
二十七で

長いあいだ冬は
五十ほどだと思っていたが

今朝の冬は米寿であったし
夜半がくればゼロであって

冬が絶えず告げていると知った歳は
それはひどく目まぐるしいもので

今は二つ

明ければきっと
二十七

魔法使いの墓

価値という木でつくられた
艶っぽい杖を振ることで

温かいお味噌汁とか
自分のことを決して捨てることのない父とか
きつく優しく抱擁してくれる影とか

そういった一切を生み出せるって
そう信じていた魔法使いの子は

拍手のふくらみも
金属の塊でさえ
一度として形にすることができずに

代わりにその杖の
細い細い先っぽが
長い時間をかけて描き出したものは

腐った臭いと死だけで

そのことに気がついた

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