魔法使いの墓

価値という木でつくられた
艶っぽい杖を振ることで

温かいお味噌汁とか
自分のことを決して捨てることのない父とか
きつく優しく抱擁してくれる影とか

そういった一切を生み出せるって
そう信じていた魔法使いの子は

拍手のふくらみも
金属の塊でさえ
一度として形にすることができずに

代わりにその杖の
細い細い先っぽが
長い時間をかけて描き出したものは

腐った臭いと死だけで

そのことに気がついた
未熟な未熟な魔法使いは

大きな声で唱えることも
身に纏うこともやめてしまって

ぼくは
ぼくはってつぶやきながら

その杖をそっと地面に刺して
根元を湿った土で盛り固めて

お墓にした

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