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短編集

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#死

二人、滑っていく星の下で

 目が合えば、スーツを着た女の人は足早に去っていった。雨足が強くなっていく。公園の芝は水を吸い、街灯の白い光で淡くきらめいていた。ベンチに腰掛けたまま上げていた顔を下ろしたら、胸がひざにくっついて。重たい頭。こみ上げてくる胃液。また吐いた。吐いて、雨に濡れた手の甲で口元を拭えば、肌がぬるり。口からアルコールが蒸発していくような気がした。

 ちらつく。こずえの下に溶けていった黒い背中が。彼女の手に

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そのうちふらっと死ぬんだろうなって、そう思いながら

 そのうちふらっと死ぬんだろうなって、そう思っていた。

 言葉の湖に、仰向けになってたゆたい続けてきた日々のなかで、何度も何度も肌に張りついてきた、励ましの言葉。いつかきっといいことがあるから。楽しいことが待っているから。人生はこれからだから。幸せになれるから。

 そんな、およそなにひとつ響かず、ただぞわぞわするばかりの言の葉を、皮膚からスッと引き剥がすたび、私は、いつかふらりと舞台から飛び降

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