マガジンのカバー画像

短編集

189
これまでに発表した短編小説をまとめています。
運営しているクリエイター

#一駅ぶんのおどろき

二人、滑っていく星の下で

 目が合えば、スーツを着た女の人は足早に去っていった。雨足が強くなっていく。公園の芝は水を吸い、街灯の白い光で淡くきらめいていた。ベンチに腰掛けたまま上げていた顔を下ろしたら、胸がひざにくっついて。重たい頭。こみ上げてくる胃液。また吐いた。吐いて、雨に濡れた手の甲で口元を拭えば、肌がぬるり。口からアルコールが蒸発していくような気がした。

 ちらつく。こずえの下に溶けていった黒い背中が。彼女の手に

もっとみる

ピンクの卵塊

 車が一台くらいしか通られへん細い道の隅っこで立ち止まって、しゃがみ込んだら、セーラー服のスカートが足元でふんわり広がって。あぜの雑草の上で、裾が寝転がる。バッタがつんつん、ほつれた糸を気にしてて。

 若い稲の上で、日の光が波立って。田んぼをのぞき込んだら、自分の細長い顔と、胸元の赤いスカーフが、水の上でゆらめいとって。まぶしい黄緑のあいだには、ネバネバした紺碧の夏空と、重たそうな入道雲が映り込

もっとみる