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【追悼】夏まゆみ先生 / 最後までこだわり続けた「言葉の力」の集大成

2023年6月21日、著者の夏まゆみ先生は病により、この世を去りました。
以後、さまざまなメディアで報じられている通り、夏先生が遺した大きな功績は、モーニング娘。、AKB48らを育て日本のアイドル像を根本から変えたこと、ジャニーズ、吉本印天然素材、宝塚歌劇団など300組以上の振付を行い、のべ200万人以上に指導してきたこと、そして、1998年の長野冬季オリンピック閉会式の振付や、20年以上担当した紅白歌合戦のステージングなど、さまざまな活動を通じて、ダンサー、振付師の地位を上げてきたこと等々、枚挙にいとまがありません。

さらに、もうひとつ夏先生が力を入れていたのが、「人間力の向上を促す著書ベストセラー」を執筆することでした。そして、2023年3月『人はいつでも、誰だって「エース」になれる! 心とからだが輝く72の言葉』を世に送り出したのです。

実はこの本の執筆は、コロナで苦しむすべてのクリエイターを元気づけるというコンセプトのもと、2020年にスタートしていました。それから3年、試行錯誤しながら執筆活動、編集作業が進められてきましたが、その間、夏先生が病と闘っていたことなど、まったく知る由もありませんでした。

2023年2月上旬の「校了」と呼ばれる締め切りギリギリまで、昼夜問わず言葉の一つひとつ細部にまでこだわり、ブラッシュアップしては、こちらにアカ字を送っていた夏先生。そんなやり取りを思い出すにつけ、亡くなってしまったということが、にわかには信じられません。

そうして病と闘いながらまさに全身全霊、精魂を込めて作り上げた作品が、遺作となった本書です。
もちろん、夏先生ご自身、この本が遺作になるなど思ってもいなかったことでしょう。しかし、悲しい結果論ではありますが、夏先生の「言葉の力」がぎっしりと詰まった、まさに「集大成」と呼ぶにふさわしい作品になったと断言できます。

2023年8月28日、東京で行われたお別れの会「夏まゆみ 魂に出会う会」には、各界の著名人はもとより、ダンスを指導していた一般の方々、ご友人などを含め、多彩な方が集まり、夏先生との別れを惜しみました。そうした、仕事、立場を超えて多くの人から慕われた「人間力」こそが、生きていくうえで一番大事なのではないか。お別れの会なのに、とても温かい空気に包まれた会場で、心からそう思いました。

そこで、改めて『人はいつでも、誰だって「エース」になれる!』から厳選した、珠玉の夏語録を紹介いたします。本書に登場する言葉は、いずれも「人間力の向上」にも役立つでしょうし、友人、家族らと人生、将来を話し合うときの「指針」にもなるでしょう。あるいは、ほかでもない夏先生の言葉が満載ですから、指導者、リーダーのための「教科書」としても使えます。

とにかく、ひとりでも多くの方に“72の言葉”を味わっていただけたら、夏先生もきっと喜ばれるに違いありません。これから秋の夜長を迎えます。ぜひ、ごゆっくりお読みください。

(ビジネス社編集部)


はじめに


私、夏まゆみは、先だっておかげさまで生誕60年を迎えました。
23歳で芸能音楽業界にたずさわり、今では指導歴30数年を数えることになります。
ダンス指導をはじめとしてさまざまな肩書をちょうだいしながら、教え子たちと接してきました。

あるときはユニット、そして個人、数百人を一度に指導したことも多々あります。振り返ると、膨大な数の言葉を投げかけてきたわけです。
そんな言葉の数々は、メディアや私の会社内に保存、記録されたりしています。

その30数年にわたる記録のなかから、72個の言葉を選び、改めて文章をしたためました。
なぜ72個かって?
それはね……私が夏=なつ=7(なな)2(two) だからなんです。

このひとつひとつの言葉を、丁寧に解釈して、
ひとつひとつに絵を描いてくださいました。
その名は、アランジアロンゾさん。
パンダやカッパくんなど、キャラクターデザインの本家本元とも呼べる存在。

この本では、“なつトラ先生”率いる4人の教え子キャラが登場して、文章に華を添えてくれました。
私の厳しい言葉もアランジアロンゾさんの絵によって、きっとやさしく届くことと思います。
なつトラたちとともに、72の言葉を贈ります。


ムカついている相手に「ありがとう」を

自分の人生を豊かにする習慣のひとつが、これです。
誰かを恨みに思っていても、いいことはひとつもありません。
それどころか、自分自身が損をしてしまう。

逆にすべての原因を自分にして、自分に何が足りないかを考えるようにしませんか。
それができれば反省点や改善点が見つかり、自身の成長につながります。
辛苦をもたらす人間こそ、自分を成長させてくれる恩人です。

あなたがムカつくことを相手のせいにしている以上、自分自身も輝けません。
原因は、あくまで自分にあると考える。
どんな問題も他人のせいにせず、自分が原因だと考える習慣を身につけましょう。
自分を取り巻く人間関係も、ずっとよくなります。


「できない」禁止令

「わからない」は、いい。
わからないのだったら、教えてあげることができるから。
でも、「できません」だけは言ってほしくない。
だって絶対できるから。
それって、自分で自分の限界を決めてるってことだから。

「できない」って声に出したとたんに、ギブアップ前提の「弱腰精神」が体中に伝わって、張りつめていた糸がゆるんでいく。ゴールに向かっている最中に、自分で自分の限界を決めてしまうなんて、すごくもったいない。
どんなことだってあきらめないっていう心意気で、なんとかなるもの。
必要なのは、今はできなくても「やり続ける」ことなんだ。
一人ひとりに「一生懸命」のゴールがあって、やり方もスピードも違っていい。
「今はできないけれど、やり続けていれば必ずできる」と信じること。
きっと成し遂げられるから。”YES, I CAN.”


「実力差」より「努力差」を感じよう

人はそれぞれ皆、違った能力を持っています。
「いや、ボクは何やってもダメなんだ……」
「私、何の取り柄もない」
そう言って、すぐ肩を落としたあなたは、自分の持っている能力に気づいていないだけです。

能力を持っていても、気づいていなければ使うこともできないでしょう。
たとえば、会社や人からの評価が自分自身で不本意であると感じるならば、まずは、投げ出さず、逃げ出さず、あきらめずに最後まで努力して、やりきることをおススメします。

そのとき、自分の能力に気づきます、必ず。
自分の能力に気づいた人にだけ、輝く場所が与えられます。
すべてが前向きに動きだし、人生は大きくよい変貌を遂げることでしょう。


忍耐は必ず成長につながる

成長するためには忍耐が必要です」
こんなふうに言われたら「えーっ」って、ちょっとイヤになっちゃうよね?
でも、「忍耐は必ず成長につながります」
こう言われたら、少しは
「耐えてみようかな!?」って気持ちにならない?

耐えるっていうと、なんだかネガティブなイメージになりがちです。
だけど実は、「耐える」ことにはたくさんの特典があるんです。

耐えることで、忍耐力がつきます。
忍耐力がつくと、ひとつのことを成し遂げる粘り強さが養われます。
同時に、たくさんのことへチャレンジする力もつきます。

さらには、チャレンジすることで、もっと自分に適した「好きなもの」と出会えるといううれしい特典も発生し、好きなことをして人生を過ごす選択肢も増えます。

忍耐力がつくと、強くなります。
強くなると周りに人が集まってきます。
逆に、強くなると孤独にも耐えられます。
そうすると、時間の使い方が上手になります。

忍耐力がつくと、他人にまどわされたり、乱されたりしなくなるので、集中力や探究心ももれなくついてきて、得することがたくさんあります。
そして何よりも素晴らしいのは、自分に自信が持てるということです。

耐えることのできたあなたは、素晴らしいんです!
耐えることのできたあなたは、自信を持っていい!

だから、逃げないで、負けないで、あきらめないで。
今、何かに耐えてつらい思いをしているかもしれない。
でも、もうちょっと、もう少しだけ耐えてみよう。


底力くんに会いに行きなさい

人は皆ものすごい底力を持っています。本当です。みんなです。
誰ひとり残らず、皆さん一人ひとりのことです。
でも、普通に生きているだけでは、その底力に気づくことはありません。
なぜならその底力を出す、使う、機会がないから。

底力っていうとなんだかものすごく威圧的だし、強制的な気がします。
だから私は「底力くん」と呼びます。
なぜなら、あなたのなかにいつも存在している、あなたの大きな味方だからです。
今か今かと、応援体制と準備体制を整えてくれています。

とある教え子が新たな一歩を踏み出す際に、舞台上でこんな言葉をかけたことがありました。

「人間にはね、すっごい底力っていうのがあって、底力って言うとちょっと怖いイメージがするから“くん”をつけておきましょう。いちばんつらいときこそ底力くんに会えるチャンスなので、成長するチャンス!と思って。
その底力くんに会えた自分は絶対自信を持てるので、つらいときも大変なときもチャンス!って思ってがんばり続けるように。
君たちはみんな底力くんを持ってるからね。きっといろんな人から、がんばれ!って言われてると思う。がんばってるのはわかってる。だけど、もっともっと自分の底力くんに会いに行きなさい」

この底力くんは苦境にいるとき、初めてフツフツとわき上がってきます。
ムクムクっと、ニョキニョキっと出てきます。
だからこそ、自分の限界を自分で決めてほしくない。
つらいとき、苦しいときこそ背中を向けないということ。
チャレンジする前にあきらめたり、「今のままで十分」とばかり、限界より前のレベルで足踏みしたりしてしまわないで、ということです。
苦境にいるときこそ、底力くんに会えるチャンス到来です。

底力くんに会える。
自分の底力に気づく。
揺るぎない自信を持てる。
誰でも持っているそんなすごい能力、使わないのはもったいない。
持っていることに気づかないのは、もっともったいない。
だから……、
「もっともっと、自分の底力くんに会いに行きなさい」


人は成長するために、生まれてきたんだ

「何のために生まれてきたんだろう、って悩むことがあって……」
人は必ず壁にぶつかります。そのとき、こんな相談が必ずあります。
小さいころ、私も「なんで生まれてきたの?」なんて、母親に聞いたことを思い出しました。今の私はこう答えます。
「人はね、成長するために生まれてきたんだ」

「おぎゃぁー」って生まれた瞬間から、誰かに無理強いされたわけでもないのに、がんばってミルクを飲み、どんどん大きくなっていきます。体重も増え身長も伸び、最初はハイハイもできないのにいつの間にか歩いて、言葉を覚えて話もできるようになる。
からだは自然と成長するのだから、一緒に心も成長していく必要があります。
立ち止まるのは「心の成長過程」なのです。ミルクを飲むようにあらゆる知識を摂取して、経験を通して学び、たくさんの人と関係を育んで……といった具合に、人は、からだも心も成長するために生まれてきたのです。


いのちがいちばん

何があっても、どんなことが起きても、生きてさえいれば、いつか必ず幸せがやってくる。
ふっと笑えちゃうとき、何もなくても穏やかな日々、きらめく瞬間、小さくても幸せを感じるとき……。
この世でいちばん大切なもの。それは命。生命。
今、まさにここにいると実感できるのは、私たち一人ひとりが生命を持っているからに、ほかなりません。
でもあまりに当たり前すぎて、今の時代、少しおざなりにされているのではないかしら? 
命を粗末にする、なんてことがあってはいけません。
いちばん大切なものは揺るぎなくあなた自身の生命です。
それを、いちばんの前提にして生きていれば……、間違えない。


夏まゆみ 著
『人はいつでも、誰だって「エース」になれる!心とからだが輝く72の言葉』
2022年3月13日(ビジネス社 刊)

夏まゆみ
1962年、寅年生まれ。ダンスをツールに人材育成・指導・振り付けを行う第一人者。これまで吉本印天然素材、ジャニーズ、宝塚歌劇団、マッスルミュージカルなど手がけたアーティストは300組以上。創出した振り付け数千曲、ダンス指導は延べ200万人以上。93年、ニューヨークのアポロシアターにて日本人初のソロダンサー出演、世界への扉を開く。モーニング娘。、AKB48指導で知られ、ダンス界のレジェンドと称賛されている。98年、冬季長野オリンピック公式ソングの振り付けを考案、指揮。NHK紅白歌合戦では20年以上にわたりステージングを歴任。近年エグゼクティブアドバイザーとして幼児教育やトレーニング施設への指導にも携わり、業界を超えて、人材育成者、人間力向上の指導者の地位を確立。著書に、『エースと呼ばれる人は何をしているのか』『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』『夢は、強く思った人からかなえられる』(以上、サンマーク出版)など。

アランジアロンゾ
1991年、大阪で斎藤絹代と余村洋子のふたりで有限会社を設立。「つくりたいものを好きなようにつくって売る」がコンセプト。雑貨制作のほか、大阪と東京に直営店、各地で展覧会やポップアップショップを展開。オリジナルキャラクターは「カッパ」「パンダ」「わるもの」「うそつき」「しろうさぎ」など多数。キャラクターデザインでは愛・地球博の「モリゾー」「キッコロ」や雑誌たまごクラブ・ひよこクラブの「たまちゃん」「ひよちゃん」、中部国際空港の「セントレアフレンズ」などを作製。著書に、『わるい本』『パンダまんが』(以上、角川書店)、『アランジアワー全集』(主婦と生活社)など。

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