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テンミニッツTV講義録③『「縄文と神道」から読む日本精神史』田口佳史

世阿弥、松尾芭蕉、石田梅岩、西郷隆盛、松下幸之助…躍動する生命力、清明心、安堵、勤勉。私たちが本当に大切にすべきものとは?
現代人の悩みこそ、「伝統精神文化」を忘れたがために生じている「アイデンティティ」の危機である。

この記事では2024年6月20日発売の書籍、田口佳史・著『「縄文と神道」から読む日本精神史』の「はじめに」を全文公開いたします。



はじめに


私たちの「生きる力」を高めてくれる伝統的な智恵や考え方とは、どのようなものでしょうか。日本人は、どう生きてきたのでしょうか。そして、日本人が本当に大切にすべきものとは、何なのでしょうか。

本書は、そのようなことを縄文時代や神道にまでさかのぼりつつ、さまざまな「理想的な日本人」の姿を通して描いていく1冊です。

もちろん、われわれ個々それぞれの日本人は、個々それぞれの考え方に基づいて生きています。しかし、その底流には、これまでの日本人が培ってきた精神が、さまざまなかたちで息づいています。それは、意識に上る場合もあれば、無意識の場合もあるでしょう。

しかし、本書を読み進めるうちに、「そういえば自分も……」と思う部分が出てくるはずです。それが見えてくれば、なぜ自分がそのように感じたり考えたりしているのか、その正体が理解しやすくなるはずです。

「おわりに」でも書きましたが、私は「愉快な人生を生きること」がとても大切だと思っています。どうすれば「愉快な人生」を送れるのか。

その大きなヒントとなるものこそ、「日本人の精神性」の源泉に思いをはせることであり、「日本人は何を大切に生きてきたか」を知ることであり、これまでの長い日本の歴史のなかで輝いている「生きる手本」を見つけることなのです。

たとえば、本書の冒頭では、エネルギッシュで創造性豊かな縄文の精神について述べています。このエネルギーや創造力が、必ずや自分の精神の基盤のなかに流れている。そう考えると、おのずから勇気がわいてくるはずです。

また、日本の豊かな自然風土が培ってきた精神性や、日本人が古来大切にしてきた勤労観なども解説しています。さまざまな人々の生き方も述べています。それと対比させて自分自身の価値観を見つめてみると、これまでの人生で「どうにも、しっくりこなかったこと」の正体が見えてくるかもしれません。あるいは、「なぜ、うまくいかないのか」の原因がわかってくるかもしれません。

とかく現代の日本では、日本古来の精神性が忘却されがちです。だからこそ、迷いが生じている部分があります。竹に木を継ぐような不自然さを知らず知らずのうちに感じてしまうこともあります。迷ったら出発点(原点)に帰る。山登りでも人生でも、それは普遍の真理でしょう。

本書では、なるべくわかりやすくその点を明らかにしていくとともに、「理想的な日本人」ともいえる人たちが何を大切にし、何を考えて、どのように生きたのかを、なるべく具体的に紹介しました。

もともとは、インターネットで視聴することができる10分の講義動画で教養を学ぶ「テンミニッツTV」で講義をしたものを1冊に編んだものです。これまで、かなりの本数の講義をしてきましたが、そのうち趣旨に合うものを選抜しています。

ですから、講義の内容があまりに多岐にわたっている部分もありますが、それが逆に「日本人の豊かで多様な精神性」の源泉を明らかにするうえでは、プラスに働いている部分もあるように思います。

私はこれまで、さまざまな機会に、多くの皆さまに向けて講義をしてきました。また、おかげさまで幾冊もの書籍を世に問うこともできました。
講義で語りかけることの良さ、そして一方で、書籍として体系的にまとめることの良さ、それぞれあるように思います。

テンミニッツTVの講義が「講義録」のかたちで本になることで、その両面がいっぺんに味わえるのも、いまの時代ならではの、なかなかおもしろいことであるように思います。

よろしければ、ぜひテンミニッツTVの講義もご高覧いただければ幸いです。

令和6年5月5日  田口佳史


CONTENTS


【第1講】日本の根源は
ダイナミックでエネルギッシュな縄文文化

・エネルギッシュで創造性豊かな縄文文化が基底にある
・「縄」の多様な機能
・縄文文様でヘビや渦巻きが使われている理由
・豊かな自然と呼応する健全な明るい生存力

【第2講】「運の強さ」と「達人の先見性」
…神との一体化の恩恵

・人智を超えた存在・神との一体化
・「運の強さ」の本質とは
・名人、達人とは明日を見通すことができる人
・天竜川の投網名人に学ぶ名人の本質=準備
・神との一体化によって「見えないものが見える」

【第3講】本居宣長が説く「神信仰」
…神道の本当の姿に迫る

・本来の神道と「国家神道」は別物である
・本居宣長と『古事記伝』への道
・本居宣長の「カミ」の定義
・神は感じるもの…日本人の鋭い感性と深い精神性

【第4講】『古事記』に記された
生命力と生成力…ムスビについて

・『古事記』冒頭に出てくる「ムスビ」
・日本国土自体がエネルギーの塊

【第5講】世阿弥と縄文のエネルギー
…夢幻能が秘めるアニマの噴射

・世阿弥とアニマの関係
・世阿弥の父・観阿弥
・高度な芸術としての能を目指した観阿弥
・将軍・足利義満に庇護される
・世阿弥の「夢幻能」……『井筒』を例に
・時空間を支配するアニマ

【第6講】松尾芭蕉…生成発展する自然に
感応する創造論

・普遍的な歌心をもって四季の変化を愛でる
・芭蕉の創造力の「根幹」とは何か?
・「新しい流れを見つける力」でおもしろい人生を生きる
・月日は百代の過客にして…無常観と絶対自由

【第7講】豊かな自然が生む
「清明心」「正直心」「安堵・安泰」

・清く豊かな水から生まれた「明浄正直」の心
・日本の自然、風土が思想・哲学にも反映されている
・豊かな自然から生まれる安堵感を経営に生かす
・復員船の記録に見る日本人の伝統的企業観
・自然が育んだ安堵感や共生観が日本人の勤労の根っこ
・「見えないものを大切にする」精神
・「溜まり文化」としての日本

【第8講】西郷隆盛の「敬天愛人」は
なぜ日本人に愛されるのか

・西郷隆盛の「優しさ」の真髄
・内憂外患を突破した西郷の人間的な大きさ
・岩倉使節団の留守中に近代国家建設を進める
・「人を相手にせず、天を相手にせよ」
・敬天愛人…天の愛情と同じように人を愛する
・克己には「母意、母必、母固、母我」が必要

【第9講】「神さまとの共作」という
信仰がもたらす仕事観

・日本の田んぼは神さまとの共作
・海外からの農耕技術が神道と「習合」した姿
・日本の農耕と「まつり」の関係
・穀霊、地霊、祖霊が日本の根本にある

【第10講】道元と千利休の奇跡…
「一つひとつを丁寧に、真心込めて」

・禅が目指すのも、「天の境地」に至ること
・「本来、悟っている」のに、なぜ修行が必要なのか
・道元が考えたこと……『弁道話』を読む
・「一つひとつを丁寧に、真心込めて」
・お雇い外国人も驚愕した日本人の「素晴らしい伝統」
・茶の湯を通して修行の概念を普遍的にした千利休

【第11講】鈴木正三を読む…
仕事が修行になれば人生は幸福になる

・鈴木正三が出家する前に書いた『盲安杖』
・「武士日用」…正直の道を用いるしかない
・「農人日用」…農作業が菩薩の修行になる
・「商人日用」…私欲を捨て、天道に沿う商売を
・商売を「修行」だと考えれば自由闊達な境地に至る

【第12講】石田梅岩…
「売り手よし、買い手よし、世間よし」の教学

・石田梅岩の生涯と江戸時代を俯瞰する
・うまくいかなかった最初の丁稚奉公
・梅岩の教養を育んだ郷里の寺社
・学びに打ち込んだ梅岩と小栗了雲の出会い
・梅岩の教えはなぜ短い期間に広まったか
・梅岩が説く「商売の基本」
・「これからの資本主義」へのヒントを求めて
・正直、倹約、精勤
・洪水ですべて流された商人は?…深い智恵の数々

【第13講】松下幸之助…
「運」を強くするための日本的哲学

・大阪船場の奉公先で商売のコツを学ぶ
・松下幸之助に聞いた「経営者の条件」は「運の強さ」
・「徳」を江戸時代の教育でいかに教えたか
・「自己の最善を他者に尽くしきる」ことが勢いを生む
・「自分を取り巻く大きなものへの信頼感」と運の強さ
・まず日本人であるという意識を根底に持って

【第14講】「惟神の道」…
天皇が体現する日本の深い精神性

・外来文化によってむしろ強化された日本の神信仰
・日本の神信仰が1万年近く絶えないのはなぜか
・日本の特性を体現する天皇のお姿


ここまでお読みいただきありがとうございました。本書は全国の書店・ネット書店にて発売中です!ぜひお手に取っていただけたら幸いです、よろしくお願いいたします。

田口佳史・著
『「縄文と神道」から読む日本精神史』



田口佳史(たぐち・よしふみ)
1942年東京生まれ。東洋思想研究家。イメージプラン代表取締役会長。新進の映画監督としてバンコク郊外で撮影中、水牛二頭に襲われ瀕死の重傷を負い入院。生死の狭間で「老子」と運命的に出会い、「天命」を確信する。「東洋思想」を基盤とする経営思想体系「タオ・マネジメント」を構築・実践、延べ一万人超の企業経営者・社会人・政治家を育て上げてきた。東洋思想をベースとした仕事論、生き方論の第一人者として政財界からの信任は厚い。東洋と西洋の叡智を融合させ「人類に真の調和」をもたらすべく精力的に活動中。配信中のニュースレターは海外でも注目を集めている。(https://www.tao-club.net/newsletter/
著書に、『「中庸」講義録』『「大学」に学ぶ人間学』『佐久間象山に学ぶ大転換期の生き方』『横井小楠の人と思想』(以上、致知出版社)、『渋沢栄一に学ぶ大転換期の乗り越え方』『教養としての「貞観政要」講義』(以上、光文社)など多数。



テンミニッツTVとは


多分野の専門家たちの講義を1話10分の動画で配信する教養動画メディアです。「知は力」であり、「知は楽しみ」でもあります。しかも、その力や楽しみは、尽きることはありません。物事の本質をつかむためには、そのテーマについて「一番わかっている人」の話を聞くことこそ最良の手段。250人以上の講師陣による1話10分の講義動画で、最高水準の「知」や「教養」を学べます。

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