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開けてしまった箱の中身は、主人公に何をもたらすのか/ドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』

長澤まさみさんが4年半ぶりに連ドラの主演を務め、渡辺あやさんが脚本、佐野亜裕美さんがプロデュース、大根仁さんが演出に参加するという話題のドラマ『エルピス-希望、あるいは災いー』

(以下、ドラマの内容を含みます)


初回では「森友」というワードがしれっと用意され、「この副総理のコーディネイト、どこかで見たことある」と、実在の元首相をモチーフにしたのではないかと思わせる演出。第2話では、「この人は真実を伝えてくれるキャスターだ」と世間に思ってもらうために必死だったと主人公・浅川恵那がサブキャスター時代を振り返り、続けて「真実のように伝えたことに、本当の真実がどれほどあったのかと思うと、苦しくて、苦しくて」と本音を吐露するシーンも登場した。彼氏との路上チュースキャンダルによって、エースの座から転落した恵那。キャスターとしての苦悩を吐き、「今はバチが当たっているんだと思います」と呟いた後に流れた映像は、東京オリンピック招致での安部元首相の例のスピーチだった。

ここまでドラマでやれたのが凄い。何年もこの企画が通らなかったという話を記事で読んだが、そりゃそうだなと頷ける。

物語は、やる気なしのボンボン若手ディレクター・岸本(眞栄田郷敦さん)が、恵那に持ちかけた冤罪疑惑のある連続殺人事件の真相究明を軸に進んでいく。当時のマスコミ報道によって、容疑者のイメージが印象操作されたことが大きく事件を歪ませた可能性があったのではないか。この辺りの描き方も、昨今のさまざまな事件報道を彷彿させるような演出だ。

インターネットやSNSなど、情報過多は疲弊することが多い。でも上手に情報を整理して精査すれば、メディアやマスコミの印象操作にのってしまうことを自分で防御することができる時代でもある。ドラマのシーン一つひとつに、いろいろと考えさせられる。

ところで、恵那の路チュー相手は鈴木亮平さん演じる局内のエース・斎藤なのだが、皮肉なことに、彼はスキャンダル後官邸キャップに昇進するという、これまたリアルな男女の格差をドラマの中で見せつけている。今のところ、斎藤は恵那と岸本に協力している。しかし、なにぶん局内では将来有望な人材。果たしてこのまま3人の協力体制は維持されるのか、ちょっと不安でもある。それにしてもキャスター役の長澤さん、発声が本物のキャスターに引けを取らない。むしろ上手いのではないか。ここまで作り込まれたら、現役キャスターらがたじろぎそう。精神的なダメージから、ものが飲み込めなくなった恵那の度重なる嘔吐シーンも壮絶だった。

チャランポランな岸本は自己肯定感が高めに見えるが、思い出したくない過去があるらしい。これまでの放送から、いじめに加担していたのはないかと想像がつく。両親は弁護士であることから、いじめの事実のもみ消しなどがもしかするとあったのか? そのあたりも回を重ねるごとに明らかになっていくのだろう。でも、キャスターとしての立ち位置に苦しみ、食事がほとんど喉を通らなくなって久しい恵那が、事件について岸本と話しながらカレーを口にできたことは、彼がキーマンとなり、次第に恵那が自分を取り戻していくのではないかという期待、希望を持たせてくれた。

落ち目のキャスターが冤罪疑惑のある事件を追う。社会派ドラマにありがちな重たい空気が、実のところこのドラマにはあまり感じられない。ほどよい重さで、軽やかなところは軽やかに。一旦は事件から手を引くと宣言した岸本が、局内で恵那の姿を追う目ヂカラ(郷敦くんに見つめられたら、そりゃ気づくだろう)演出、筒井真理子さん演じる岸本の母や六角精児さん演じる弁護士・木村のキャラ設定などは、いい塩梅に思える。

まだまだ展開は読めないが、開けたパンドラの箱の中身が災いではなく、希望であってほしいと願いながら、毎週月曜日の夜を過ごしている。


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