美味しいものを一緒に食べる幸せ／劇場版『きのう何食べた？』

人気ドラマ『きのう何食べた？』の劇場版が11月3日に公開され、シロさんとケンジの美味しい日常が帰ってきた。

劇場版「きのう何食べた？」公式サイト

シロさんとケンジが繰り広げるホームドラマ

物語は、西島秀俊さん演じる料理上手で倹約家の弁護士・筧史朗（通称：シロさん）と、内野聖陽さん演じる恋人で美容師の矢吹賢二（通称：ケンジ）を軸にした、ホームドラマである。

連続ドラマの放送当時は、日々のごはんを囲む幸せと、シロさんとケンジが互いを思い合う姿に泣き笑いした。それは何も、2人が同性同士だから特別なわけではなく。『何食べ』のどこが好きなのかと問われれば、1つは、誰かと美味しいごはんを食べれば、また明日がんばれると思えるところ。もう1つは、相手にベタ惚れなのはケンジに見えるけど、実はシロさんもケンジの良さをよく理解し、彼をとても尊敬しているところ。

一緒に食事する。そんな当たり前のことが当たり前じゃなくなった中で、先日改めて全話を視聴したら、号泣する事態に陥ってしまった。

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もともと映画は観に行くつもりだったのですが、まったく懸賞当選に縁のない私に（しかも拡散力無し……）、応募した鑑賞券が当たりまして。テレ東ファン支局さん、ありがとうございます！ 公開から10日遅れですが、観てきました。

（以下、一部内容を含みます）

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人を思いやる気持ちが、2人の日常を通して丁寧に描かれた

劇場版は、シロさんがケンジの誕生日に「京都旅行」をプレゼントするところから始まる。

「彼氏と京都旅行なんて、乙女の憧れだよ～」と、飛び上るほど喜ぶケンジ。ごく近しい人以外にカミングアウトしていないシロさんの気持ちを尊重する彼にとって、「ふたり旅」は、より特別なもの。だが喜びも束の間、幸せ過ぎるがゆえに悩むことになる。一方のシロさんも、あるときケンジと若いイケメンがなかよく歩いているところを偶然見てしまう。

互いにかけがえのない相手だからこそ、傷つけたり傷つけられたりするのが怖くて、胸の内の素直な気持ちを言い合えない。大事な人の心に踏み込んで、機微にふれるには勇気が要る。またシロさんもケンジも、この先の未来について真剣に考える年齢にある。これから鑑賞する人もいると思うので詳細は書かないけれど、劇場版では、これら2つを軸にしてストーリーが展開する。

さまざまな偶然によって疑心暗鬼になる2人の心の叫びは、ドラマと同じく時にコミカル。でもそれを声にして相手と向き合うことや、人に関わって生きていくことの尊さが、映画を通して伝わってくる。

美味しい料理とあのキャラたちが次々に登場

シロさんの美味しい家庭料理も健在だ。普段の食事からアクアパッツァやローストビーフ、おせちまで、食卓を彩る料理の数々。ケンジが美味しそうに口にしながらベタ褒めするシーンは、こちらも思わず口をぽわんと開けてしまう。

特に、キャラメルリンゴのトースト！ 二人でわちゃわちゃするシーンは「幸せをありがとう」という気持ちになる。リンゴとパンとハーゲンダッツを買ってきて、絶対つくる！ と、おそらく観た人全員が思うはず。その前に、自分はわさビーフを買ってしまったけど。とにかく、内野さんのケンジは表情豊かで、それについのせられて苦笑いする西島さんのシロさんも微笑ましい。スクリーンいっぱいの幸福感を、映画館で見知らぬ人たちと共有する。

2人を取り巻く人たちは、ドラマでお馴染みの小日向さんとジルベール（わさビーフも健在）、佳代子さん一家、シロさんの両親、職場の面々、中村屋の店員さんに加えて、ケンジの家族や職場の後輩・田渕くんも登場する。

ドラマ版と地続きの2人の日常だが、ドラマを観ていなくても、誰かとごはんを食べて「美味しいね」と言い合えることがこんなに愛しくて大切なことなんだと、胸を打つのではないだろうか。映画館ではクスクス笑いが漏れながら、要所要所で鼻をすする音が聞こえた。

心もお腹も満たす毎日の暮らし、幸せのかたち

私は、シロさんが実家で梶芽衣子さん演じる母・久栄と台所に立って、肉団子をつくるシーンが印象的だった。頭では分かっていても、息子とその相手をなかなか受け入れられない母が、それでも2人の幸せを願っていると伝わる会話。人との関わりから得たシロさんの考える幸せのあり方も、この会話に表れている。“肉団子”というアイテムと、誰かから“受け継いでいくこと”が効いていて、静かなシーンながら涙をこぼしながら観た。

スクリーンの中の彼らは、隣の家の彼らでもある。わが家の話でもある。「今夜は、あの人の好きなあの料理をつくろう」「実家に電話してみようかな」……。人はひとりで生きているわけじゃない。そんな気持ちになる映画だ。

エンドクレジットで流れるのは、スピッツが歌う主題歌「大好物」。ちょっとノスタルジックでやさしいメロディが、温もりのある毎日と未来を思わせてまた涙する。じわじわ涙エンドレス(笑)。シロさんもケンジも、周りの人たちも、私の中に生き続ける。明日は誰かと美味しいものを囲みたい。

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