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ふたりの魂のつながりと、直秀/大河ドラマ『光る君へ』第9回

(ドラマの内容を含みますので、視聴後にお読みください)


検非違使の表情、「直秀は嫌だろうが……」という道長のことば、一座の歌声。すべてが不穏に思えた。

ああ、直秀と仲間が遠い国へ行ってしまった。

これまでに、自由な生き方の象徴として頻繁に出てきた「鳥」というワード。直秀ら一座が辿りついたのが「鳥辺野」とは、あまりにも酷じゃないか。政次の愛の形より(直虎)、首桶オンパレードより(鎌倉)、ずっとずっとつらい。

まひろと2人、急ぎ駆けつけた道長が見たのは無残に放り出された直秀らの亡骸。「7人も流罪なんて面倒だ」と道長の同僚が話していることから考えると、検非違使たちは彼らを送るのが面倒くさくなって一座を殺めたということ?そのときの気分で?

だとすれば、おそらく道長が放った「なんと愚かな」とは、そんな検非違使に安易に金を渡した自分のこと、貴族社会全体を含んでいるのだろう。自分が余計なことをしたせいで、心を許せる友を失った道長。メンタルが崩壊するのは無理もない。

直秀が力強く握りしめていた土を払って扇子を握らせたのは、きっと彼らの死を無にしないため。あの拳と土には、貴族を嫌悪していた直秀の無念と怒り、この世に対する「お前たちはどう思うのか?」というメッセージが込められているように取れる。

まひろが道長の背中を抱きながらも冷静でいられたのは、貧しい暮らしによるものだと思う。歴史に詳しくないので勝手に平安は華やかなイメージなのだが、実際には疫病や貧困など、日々生死の境にいた民が多かったのではないだろうか。若い道長は所詮右大臣の息子でボンボンであることが、ここへきて浮き彫りになってしまった。こんな形であらわになるとは。明日の命も知れぬ民への道長の考えが甘かったのだ。

第5回で、「母親が殺されたのは自分のせい」と泣きじゃくったまひろと同じように、道長も「直秀たちが殺されたのは自分のせい」と泣きじゃくる。ちはや(まひろママ)の死の真相を共有してきた2人が、散楽一座を共に弔うことで、誰にも理解されない絆をより強固なものにする。なんという脚本。大石さん……鬼すぎる。

これは政治に興味のなかった道長が、世を動かす力を持ちたいと考えるようになるきっかけかもしれない。まひろも、「お前が男であったら」と再度言う為時に、「男であったなら、勉学にすこぶる励んで内裏に上がり、世を正します」と返している。

死を以て、まひろと道長の魂と魂を結びつける形となったのは、直秀の宿命なのだろうか。

いや、脚本のせい(褒めてる)。

これ、どうなるの?

まだ9回しか放送されていないのに。半年間視聴し続けてきたような気分。うう、直秀ロス、毎熊ロス!!

ため息交じりにそんな風に思っていたら、次回(第10回)の予告動画に「ぬおおおおおおおぉぉーーーーー!!!」と声が出た。え、これって、これって!?

しかしすぐに、脳内の大石さんが「そんな生やさしい物語じゃありません!」とピシャリ(笑)。そりゃそうだ。たとえ2人がひそやかに結ばれたとしても、表向きには何も変わらない。むしろ、離れていってしまうのではと危惧している。

直秀の死は、生涯2人に重くのしかかるだろう。ただ、目指すものは同じはずなのに、立場や環境が変われば気持ちが変わることもあるのではないか。特にまひろは生真面目だから。倫子や家のことを考えれば、自然と道長から遠のいてもおかしくない。とはいえ、もはや引き返せないところまで来ているが。

道長はやがて最高権力者となる。これって、本当に欲しいものは手に入らないという流れになるのでは? たぶん私が、はるか昔に「光源氏は藤原道長がモデル」という話を聞いたからだと思う。

とにもかくにも、ひと筋縄ではいかない2人の今後。乙丸と百舌彦は、この先もずーーーっと「うちの主たち、大丈夫か?」と悩まされるのだろうな。

ううう、しつこいようだけど、直秀&毎熊ロスをどうにかして補いたいの! 胸の内をさらけ出すことはなかったスマートな直秀。毎熊さんの演技に、どんどん引き込まれていった。もう少し観ていたかったなあ。毎熊さん、お疲れさまでした。


(余談)
いやちょっと待てよ。我らにはまだいるじゃないか、大ちゃんが。はよ、大ちゃん来い。(変わり身が早い 笑)

松下洸平さんが演じるのは、越前にやってきた宋の見習い医師・周明というオリジナルキャラクター。史実によると、紫式部は一時期越前で暮らしている。劇中でその頃のことが描かれるということは、この2人にも何かが起こるのか? 起こるのか? 



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