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あの一日を

『THE FIRST SLAM DUNK』を観てきた。

私は、井上雄彦の漫画は『バガボンド』を特に愛しており、度々このnoteでもネタにさせて頂いてきたが、『スラムダンク』も普通に好きである。

今作の映画は公開前に、『FFⅨ』ばりの情報規制(『FFⅨ』は発売直前まで戦闘シーン公開がなかった)があり、声優交代劇などもあり、炎上を繰り返していたが、まぁ、普通に考えれば声優交代は当たり前であり、問題は売り方と、ファンの方々の熱意を見くびっていたというところだろう。

私個人としては、『スラムダンク』はマイケル沖田と闘う映画版を劇場に観に行ったくらい(本当は『ドラゴンボール』が目当てで、あの映画は一番好きだ〜。)で、アニメ版も普通に好きだし、声優継続なら嬉しいが、まぁ些末な問題かなと思っていた。

で、今回の映画に関しては公開前から噂されていた山王戦であり、山王戦と言えば、恐らくは漫画史上屈指のクライマックスを迎える名試合である。『バガボンド』の山王戦はどこか、と問われたら、まぁ吉岡一門70余名との一乗寺下り松の決斗になるのだろう(1対1の殺陣ならば、武蔵VS清十郎、鐘巻自斎VS不動幽月斎が好きです)が、井上雄彦の漫画というのは動画としても成立するほどに、乱戦などを非常に見やすく、リズミカルに描いている点があって、それが今作ではついに実際に映像化された、というだけで、これはもう素晴らしい試合シーンである。

26巻、27巻の2冊を通して描かれる、殺戮スペクタクル。大体70人、数えると斬っています。

アニメーションでは止め絵の迫力や、モノローグによる補完での感情爆発が重要であり、例えば昔のセルアニメならば、動画枚数は多い方がいいわけではなく、一枚絵の力があった方が良く、他の場面はわざと崩すなどの技術が使用されていたわけだが、その従来のアニメの良さは、井上雄彦の描く動き、というものに生理的に反していたのだろうと推察される。

今作はキャラクターが動く動くで、ヌルヌルとした質感は最初こそ違和感を感じるが、慣れればその臨場感と躍動感は素晴らしい。以前、『すずめの戸締まり』にはワンダーがない、と書いたが、「THE FIRST SLAM DUNK」にはワンダーがある。井上雄彦はやはり見ている視点が2つくらい先を行っているような気がする。

あくまでもファンムービーである。今作は宮城リョータが主人公として配置されており、彼の過去が山王戦の最中に複数回挟み込まれるという構成であるが、これがまぁリピートにはキツイかな、と思わせる仕様になっている。
1本の映画として構成するための策ではあると思うのだが、これは少しノイズになっていて、感情の昂りをクールダウンさせてしまっている。
然し、その気持をまたヒートアップさせるのが試合シーンであり、それでも無論、漫画的な時間感覚に縛られているが、その鎖をさらに解き放ち、あの場で起きたこと、あの試合そのものを読者=観客に追体験させるという目論見は成功している。

例えば、サッカーワールドカップの日本VSスペイン戦の三苫のパスからの田中のシュートなんて、漫画ならばダイアローグをばりばり入れて凄まじい感動を与えるよう演出するだろうが、現実は三苫の気持ちも、田中の気持ちも、プレイで観るだけは慮ることしかできない。けれども、それは作劇を超えた圧倒的な感動を観客に与えていた。語らずとも、語るものがリアルの試合ではあるのである。
この映画はまさに、そのような映画である。私はこの作品は粗も無論あるし、完璧とは言えないと思うが、ワンダーな1作だと思う。

ただ、普通に感動したいー!っていう人は『すずめの戸締まり』の方がいいかな。

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