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子供時代に出会いたい絵本作家と画家 by 大橋暢子 (ゲストライター)

さおりより

ニューヨークは、暑い日が続いたり突然の雷雨に襲われたり天気が読めない日々が続いていて、まさに「夏」真っ盛りという感じです。
皆さんいかがお過ごしですか?
さて、今回のブログは先週Brooklyn de Kosodate Support主催で『NYの図書館とこどもの読書』のトークをしてくださったご縁で大橋暢子さんがブログをゲストライターとして書いてくださることになりました。
暢子さんのおすすめの本も載せてありますので、是非目を通してみてくださいね。

大橋暢子 ゲストライター

こんにちは、ニューヨーク公共図書館の児童図書館員の大橋暢子(のぶこ)です。

本好きの母親のもとちょうど昭和の中頃に、海外の児童文学がたくさん翻訳されて日本に紹介された好タイミングで育ち、大学生の時に近所で家庭文庫を開いていらした方のお手伝いをさせて頂いたりして、児童図書館員という職業に落ち着きました。アメリカには図書館大学(Library School)があるのだと聞いて、海をわたり(流石に飛行機の時代ではありますが)西海岸ワシントン州のシアトルの大学で学んだあと、大陸横断して(これも飛行機)東海岸のニューヨーク公共図書館にやってきました。気がつけばそろそろ30年、このブログを読んでくださっているお父さんやお母さんの中には私のはじめの頃のストーリータイムにきてくれたお子さんぐらいの年齢の方もいらっしゃるに違いありません。え、まだ生まれてなかったですか?!

何が子供にとって面白いか、というのはお子さん一人ひとりまちまちではありますが「良い本」というのは読んでから何年たってもふっと思い出したりする幼なじみのような気がします。ためになる、とか役に立つ、のではなくその本に出会ったことがどこかで成長の糧になっているような本だと思います。

子供は時には、何でこんなのがおもしろいのかわからない、とこちらが思う本がお気に入りになったりしますが、そんな時は大人がそう思ったことはこっそり胸にしまっておいて、お気に入りができたことを大切にしてあげてください。自分の好きだと思ったものを大人に認めてもらったというのは大変嬉しいことだと思います。

この場を借りて私が思う「良い本」を紹介させていただく、とは言え、この本は良いはずだから読まなくてはならない、とたくさん本を押し付けられたら楽しくないですね。子供に本を選ぶ、読む上で大切なのはその経験が大人にも子供にも心地よい、楽しい、ということが一番だと思います。小さい頃に大人の膝に座って読んでもらった、寝る前に大人と一緒にゴロン、となってよんでもらった、など、本の中身だけでなくその時の温かみなど全てが読書の経験として残って行くものだと思います。とかく大人は忙しいですが、どこかで絵本一冊分の時間を子供と楽しめたら、将来のかけがえのない思い出になるだろうと思います。

そして、子供に自然に良い本と出会わせるトリックは、手の届くところにそういった本がある、という環境だと思います。図書館から借りてきた本がその辺にあって、あたりもハズレもあるかもしれないけれど、色々手に取る中から、作者と画家が一緒になって良く考えられて作られ、たくさんの子供や大人に親しまれてきた「しっかりした」たくさんの絵本に出会うことで、自然に言葉を楽しむ、絵やデザインを楽しむ、自分のまわりの景色に目を向ける習慣がつき、そのうちこの本は良い、と自分で選べる力がついてくるはずです。

ここにあげた作者や画家は、私が子供の頃に出会って、気に入って親に何度も何度も読んでもらい、そのうち自分で読めるようになってからも手に取って読み返した本でもあります。初めは多分、まちの図書館から借りてきて、そのあとは誕生日などに買ってもらって家の本棚に並んでいた本です。この本は、「何十年経っても色褪せることなく」というお決まりの文句がありますが、本当にそのとおり、何回も版を重ねて出版され、流石にちょっと古いなと思う風景や言い回しが出てきたりするかもしれませんが、本質のところで子供がおもしろい、と感じられる何かがある本だと思います。

もう一つ、これらの本にはものがたり(ファンタジー)もあるし、いわゆるノンフィクションもあります。物語(ファンタジー)もおもしろいけれど、自然が不思議に満ちていることを知らず知らずのうちに伝えてくれるノンフィクションの素晴らしさもあります。思えば、子供にとっては未知の世界はフィクションとノンフィクションの区別は無く、自分のすぐ身の回りの世界の見方を変えたり、ちょっと広がった世界に出て行ったりするきっかけになるものだと思います。

ここに紹介した本は、現在こちらの図書館に無い本もあるのですが、出版されている限り図書館で入手できるようにしています。

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加古里子(かこさとし)Kako, Satoshi
かこさとしさんの作品で真っ先に思うのはまず「だるまちゃんとてんぐちゃん」。てんぐちゃんみたいになりたいだるまちゃんが探してくるかぶりものや履物が面白く、子供のごっこ遊びの楽しさだったのだなと思います。「はははのはなし」は小学校低学年の頃出会って、私の歯についての基本的な知識の原点で、この本は50年経った今でもたくさんの子供に読まれています。工学博士、技術士(化学)でもあられた加古里子さんの本はどれも身の回りの自然や生理が知らず知らずのうちに身に付くすばらしい作品です。

五味太郎 Gomi, Taro
五味太郎さんの本は英語をはじめ色々な言語に翻訳されて、英語版が図書館にも入っています。カラフルでしっかりした絵の中で金魚とかくれんぼを楽しんだり、「みんなうんち」みたいなちょっとショッキング?なタイトルから、けっこう真面目な内容でも笑いながら読めてしまいます。言葉の遊びも楽しめます。五味太郎さんは、ネットで見つけたKUMONのインタビューの中で、「絵本があんまり好きじゃない人っていうのも、いて当たり前。子ども=育児=絵本だなんて、嘘だよね。絵本の表現を好む人もいれば、そうじゃない人もいる。」
https://mi-te.kumon.ne.jp/contents/article/12-91/)と、絵本は一つの方法なので子供の成長に絵本が必要、という言い方はやめよう、ともおっしゃっています。たくさん絵本を楽しんできた私としては、まあそうは言っても、人間関係のように「出会いのタイミング」もあるの、できれば楽しめる絵本にたくさん出会えるといいなあと思います。

中川李枝子 Nakagawa, Rieko
母は子供に本を読むときにかならず、タイトルと作者、画家も読んでいました。「なかがわりえこ さく、おおむらゆりこ え」というフレーズは作者とか画家とかわからない頃から本と一体となっていました。「ぐりとぐら」はもちろんカステラ、「そらいろのたね」は幼稚園で、みんなで色々な大きさの段ボール箱で小さな家から大きな家を作って物語を体験した記憶があります。中川李枝子さんの子育ての本、「ママ、もっと自信をもって」や「子供はみんな問題児」もお勧めです。私の子供が小さかった頃に出版されていればよかったのに、と思います。

安野光雅 Anno, Mitsumasa
絵本、というのは文字どおり、字だけでなく絵でもお話が語られている本です。絵本の絵は、もう少し長い物語の挿絵よりももっと大事な役割をもっています。福音館書店の「絵本のあたえ方」に創始者の松井直さんは、「すぐれた画家は絵の部分部分の細かいところに、細心の注意をはらって、文章には書きあらわされていないものがたりの、いろいろな部分をも、絵で語ってこどもの期待にこたえます。」と書かれています。(https://www.fukuinkan.co.jp/pdf/ataekata.pdf)
しっかりした絵本は、絵も、明るい、きれい、というだけではなく何かしら感心させる要素があります。安野光雅さんの絵本は、騙し絵とか数学の概念の絵本とか、内容もあれ、と思わせるとともに、「旅の絵本」のようにいつまでも隅々までも絵を眺めていたくなります。こどもの頃に、手にとった安野光雅さんの本で何度も「あっ」と驚く体験をしたので、「安野光雅」という字を見ると魔法のドアを見ている気分になるぐらいです。

谷川俊太郎 Tanikawa, Shuntaro
こどもの頃、なぞなぞあそびとか、早口言葉とかにはまった時期がありませんでしたか?谷川俊太郎さんの「ことばあそびうた」は口で言ってみるのが面白くて、まず、母親がうちで唱え出し、私も自分が親になってから子供がわかっているかはたいして気にぜず読んで面白がっていました。そういえば、家にあった「マザーグースのうた」のシリーズも谷川俊太郎さんの作品でした。詩、と思うとちょっと難しい気がしたりするのですが、ことばの遊びとして読むと抵抗がなかったりします。ついでに、谷川俊太郎さんをはじめ、ご自身の作品が読み応えのある作家の方の翻訳した絵本や読み物も、翻訳と感じず自然に楽しめます。

石井桃子 Ishii, Momoko
石井桃子さんはこどもの本について、読書についてなどたくさんのエッセイや本を書かれていらっしゃいますが、私がこどもの頃にであった絵本は「山のたけちゃん」でした。私にはあまり馴染みのない農村でのくらしの様子が書かれていましたが、田んぼに来るからすをおどかすためにたけちゃんたちが色々工夫したりするのを読んで、なんとなく知っている男の子の話のような気がしました。出版元では品切れ、となっているのでもう手に入らないのかもしれませんが、この本に限らずちょっと古いな、と思っても時や場所を超えて響く絵本に出会えることがあります。ちなみに、石井さんの代表作でもある「ノンちゃん雲に乗る」は、自分が「のんちゃん」であったので読んだのですが、主人公のノンちゃんがわんわん泣いているところから始まるのでなんとなく嫌になって読みませんでした。他人が良い、と言って進めてくれた本でも自分の理由があって好きになれなかったりすることもあるという話です。

馬場のぼる Baba, Noboru
私は小さいころあまり漫画を読まなかったのですが、「11ぴきのねこ」はちょっとふざけたようなイラストと文がぴったりで、心に残る一冊です。自分の子供にも読んで聞かせて、「ゴロニャーン、フワーン」などという音がおもしろくて何度も読みました。自分で読めるようになってから声に出して読んでも楽しい本です。

山本忠敬 Yamamoto, Tadayoshi
実家の書架に文字通り手垢にまみれて並んでいるのが「のろまなローラー」(小出正吾 作)、「とらっくとらっくとらっく」(渡辺茂雄 作)「しょうぼうじどうしゃじぷた」(渡辺茂雄 作)です。文章ももちろん、素晴らしいのですが画家は山本忠敬氏で文章と絵が切っても切り離せない本です。

そのほかにも、絵が印象的な絵本の画家を付け加えると,

堀内誠一 Horiuchi, Seiichi
「たろうのおでかけ」シリーズ
「ぐるんぱのようちえん」


赤羽末吉 Akaba, Suekichi
「こぶじいさま」
「おおきなおおきなおいも」

薮内正幸 Yabuuchi, Masayuki
「どうぶつのおかあさん」
「ここよここよ」

長新太 Cho, Shinta
「おしゃべりなたまごやき」
「ぴかくんめをまわす」

まだまだ、たくさんあるのですが、私がいちばん、出会えて良かった、と思う絵本を作った作家、画家をご紹介しました。ここまで読んでくださった方、お気に入りはありましたか? 自分で読んだことがなくても、身近に子供たちがいることをきっかけにまた色々な絵本手に取る機会ができて、楽しんでいただけたら嬉しく思います。現在図書館にまだ入っていない本も、絶版になったり在庫切れ出ないものは順次図書館に入れる予定です。

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