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煉獄のオルゴール

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生前の記憶を失った「僕」は、黄泉路の分岐点の管理人「瑠璃」の元で目を覚ます。しかし、「僕」はそのまま死に切ることができず、自らが生きた人生を記憶として取り戻すため、異形の世界を彷…
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#長編小説

最終章 - 現し世のオルゴール 3

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  現し世のオルゴール 2
次回 →  おしまい

 ふと、沢山の夢を見た気がする。
 重い瞼を開けてみると、最初に見えたのは清潔感のある天井と、包帯を巻いた少年の顔。僕はその顔に見覚えがあったが、けれど即座にその人のことを思い出すことがはばかられる。

 一瞬で、僕がしてしまったことを理解した。
 僕は、彼のことを突き落とした。僕のことを唯一愛してくれたは

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最終章 - 現し世のオルゴール 2

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  現し世のオルゴール 1
次回 →  現し世のオルゴール 3(おわり)

 瑠璃は恐るべき形相を向ける。心の底から、彼は「死」を望み、狂気的な雰囲気があたりに立ち込める。

 当然だった。この世界を支配しているのはまさに瑠璃という人格である。現実の錫野折人は確実に自殺を実行してしまった。だからこそこの世界は生まれ、強固な意思となった瑠璃が生まれた。
 それ

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最終章 - 現し世のオルゴール 1

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  暗夜の吸啜 3
次回 →  現し世のオルゴール 2

 扉の先など、とうに決まっていた。最初に見た光景の連続、開いては散っていく朝顔、臓物を飾るハニカム構造のオブジェクト、そして瑠璃という優一そっくりの顔をした少年、いくつもの疑問と不可解さを飲みこんでこの狂った世界を歩いてきたが、ここがようやく終着地点だ。

 逸る気持ちを抑え込むのに必死だった。なぜな

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第四章 - 暗夜の吸啜 3

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  暗夜の吸啜 2
次回 →  現し世のオルゴール 1

 驚愕、そして恐ろしいほどに呆れ果てる動機にうまく心が整理できなかった。およそそれは、目の前にいる「僕」にとっても同じであり、彼自身、あの出来事に対して理性的な采配を下すことのできたのは、これが最初なのだろう。

 理想化した憧憬が自分の中で瓦解した。だから、道連れに殺した。
 こっちまで恐怖してしま

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第四章 - 暗夜の吸啜 2

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  暗夜の吸啜 1
次回 →  暗夜の吸啜 3

 「僕」の部屋の扉にはネームプレートの一つもかけられてはいなかった。その上、二階の中でも一際奥まったところにあり、納屋を彷彿とさせる位置関係だ。
 両親が「僕」に対してどのようなことを行ったのかは明白である。だからこそ、僕はここにいる。この扉を叩くためにこの不毛な世界を歩き回ってきた。そう心に据えて、ひっそり

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第四章 - 暗夜の吸啜 1

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  軋む者 4
次回 →  暗夜の吸啜 2

 開け放たれた自宅の扉をくぐり抜けると、最初に聞こえてきたのは罵声だった。大方、両親の口論であることは目に見えているが、どうやらこれは随分と毛色が違う。

 というのも、これまでに聞いてきた口論はどちらも、当事者のいないところで文句を投げつける、いわば「内輪」で終わる内容だったが、こればかりは違う。
 話の内容は

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第三章 - 軋む者 4

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  軋む者 3
次回 →  暗夜の吸啜 1

対面した扉は奇怪だった。
 鉄製の扉にも関わらず、その質感は非常に気味が悪く、水面のような独特な揺れが生じており、その揺れが人の顔のように輪郭となっている。
 言うまでもない。恐らくこれは自分自身の顔。だが今のものではない。日記を書いていた時の自分の歪みきった表情が不意に思考を掠め、こちらも同じように顔を顰めさせ

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第三章 - 軋む者 3

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  軋む者 2 
次回 →  軋む者 4

 急変した自宅の様相に驚いていると、扉はひとりでに大声を上げて開かれる。
 まるでこちらへ来いと言わんばかりの態度だった。先の実家の扉は、否が応でも開かなかったというのに。

 その2つのことから、ひょんな違和感が思考を追う。本当にここは「死後の世界」なのかという疑問だった。
 瑠璃は仕切りにそう言っていたが、今ま

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第三章 - 軋む者 2

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  軋む者 1
次回 →  軋む者 3

 瑠璃の言葉に従ってすり抜けた扉は、まるでおとぎ話に出てくるように小さく、おおよそ普通の体格よりも小さい僕でもギリギリ入ることができるほどの大きさだった。
 扉を開いて腹ばいでそこに入っていくと、先程まで鬼気迫る調子で鳴り響いていたオルゴールの音が途絶え、静かな沈黙の奥で耳鳴りだけがけたたましく頭に残響している。それ

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第二章 - 鏗鏘のアラベスク 1

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  水疱の記憶-3
次回 →  鏗鏘のアラベスク-2

-1

 完全に意識が途絶えた音が聞こえた。その音は、アラベスクの音色と混ざりあうように鼓膜を揺さぶり、苦しむ呼吸音のような音を僕に伝え続けていた。
 巡る思考の中は、先程見えた光景でいっぱいだった。あの踊り場での映像は、明らかに僕自身の記憶である。しかし、最後の光景は、自分が愛していると伝えたはずの優

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第二章 - 鏗鏘のアラベスク 2

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  鏗鏘のアラベスク 1
次回 →  鏗鏘のアラベスク 3

-2

 もう何度ここで意識を失えばいいのか、微かな呆れとともに僕は痛む頭を押さえつけながら目を覚ます。
 未だに頭の中にはあのオルゴールの音色が残響しているようで、巡っていく思考を阻むかのように頭がガンガンする感覚が常に続いている。そんな状態でありながら、僕はゆっくりと立ち上がり、ぐらぐらと揺れ

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第二章 - 鏗鏘のアラベスク 3

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  鏗鏘のアラベスク 2
次回 →  鏗鏘のアラベスク 4

 一番最初に思い立って向かった場所は、今まで多くのことを勉強した教室だった。しかし、どの教室が自分にとって縁があるかわからないため、それらしき教室を片っ端から調べることになる。
 学校そのものの構造は変わっていないようだが、どうにも僕自身がこの校舎の記憶が曖昧であるがゆえ、どこに何が配置されている

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第二章 - 鏗鏘のアラベスク 4

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  鏗鏘のアラベスク 3
次回 →  軋む者 1

 音楽室のある3階には、鈍く鳴り響くオルゴールの音色が縦横無尽に反響していた。しかし、その旋律は先程のように完璧な旋律を紡いでいるのではなく、時折音色が飛んでいるように思える。なんとなく、上手な奏者があえてこのような弾き方をしているようだった。まるで、こちら側を嘲笑するように。
 僕はその音色に導かれるよう

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第三章 - 軋む者 1

目次 → 「煉獄のオルゴール」
前回 →  鏗鏘のアラベスク 4
次回 →  軋む者 2

 気がつくと、僕はあの「記憶の中枢」にいた。
 透明な六角形のケースに臓物が浮かぶ異形と、目の前に立ち尽くしている瑠璃が最初に見えて、辟易とした声を上げて蹲ってしまう。

 今見た光景、到底冗談の類であるとは思えない。現実をなぞってきた感覚があるからこそ、「優一を自らの手で殺害した」という事実が体中の筋肉を

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