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愛を受けて、愛をそそぐ

妊娠・出産を初めて経験した当初の私の心の変化について書いてみる。


第一子の出産を間近に控えていた頃、私には心配なことがあった。


“子どもにちゃんと愛を注げるのだろうか?“


もちろん、妊娠が発覚したことは涙が出るほど嬉しかったし、
この日をずっと待ち望んできた。
お腹の中にいる頃から、たまらなく我が子が愛おしい。

だけれど、今まで赤ちゃんと全く接する機会がなかった私。
まともに抱っこもしたことがない。
どうやって子どもと接するんだろう?
ちゃんと母乳は出るのかな?
世の中の母親みたいに、私も母になれるのかな?
我が子に、ちゃんと愛を伝えられるか?
最大限の愛を、伝えられるのか?


我が子に会えるのは楽しみだけれど、
それと同じくらい不安でいっぱいだった。


その不安と心配を打ち消すほどの力をくれたのは、
産婦人科で過ごした数日間だった。

私が通っていた産婦人科は、
いつも混んでいる院だけど、先生や助産師、スタッフもみなさん
丁寧で優しくて、ホスピタリティに溢れた病院だった。
担当の先生は、どれだけ忙しくても(おそらく休日はゼロに等しいと思う)、
目の前の患者さんとお腹の赤ちゃんに真っ直ぐに向き合ってくれる。
そして赤ちゃんのことが大好きなのもすごく伝わってくる。
私なんて、たくさんいる患者のうちの1人に過ぎないはずなのに、
そんなことを感じさせない、大切な1人として見てくれているのがわかるのだ。
「大丈夫だよ」
先生のこの言葉は、私を安心させてくれる魔法のようだった。

そして助産師さんは、とっても優しい。
不安を打ち明ける前に、不安を抱えていることに気がついて、
温かく声をかけてくれたときは本当に感動した。
母乳が出るか不安な私に、あの手この手で授乳の方法を調整してくれたり
「大丈夫。赤ちゃんも吸う練習、ママも練習。お互いでトレーニングしているのよ。徐々に赤ちゃんも飲めるようになるし、お乳も出るようになるよ」
こんなふうに言ってくれた言葉が肩の荷をスッと軽くしてくれた。
特別なことをしてもらっているわけではない、
ただ私の思いに寄り添って、ただ頷いてくれて、
安心させてくれて、時には背中を押してくれた。

もちろん、それが彼らの仕事なのは分かっているけれど、
それ以上のものを感じるのだ。
産後の弱った体と、緊張でいっぱいの心を、
温かく充してくれたのは、先生と助産師さん、スタッフさんたちの愛だと思う。


ベビー室から聞こえてくる助産師の声、
「お乳飲むの頑張ったねぇ」
「寝やすいようにおくるみで包もうね」
「ママが迎えに来たよ」
「元気なうんちしたね」
これはいたって普通の会話なのだろうけれど、
子どもと接したことのない私にはとても新鮮だった。
医師や助産師の赤ちゃんへの関わり方を見ていると
あぁこんなふうに赤ちゃんという存在を受け入れるのだなと、
感覚で学ぶというか、母親の本能(?)が呼び起こされてくるというか、
今までの自分から全く別の新しい自分が生まれた感覚というか、
うまく表現できないのだけれど、とにかくすごく濃いものを得た感じがした。


そして気づいた。
妊娠してから今まで、私を支えてくれたり
優しさをくれた家族や友人、職場のみんな、見知らぬ人。産婦人科の皆さん。
いろんな人の愛を受けて、自分の中を愛で満タンにしてきたのだと思った。
そしてそれが、コップから溢れる水のように
自分の中で永遠に溢れ出すようになって、
やっと会えた「我が子」に
不安なく愛を注げるような気がした。

“私、大丈夫だ。“

これから困難はたくさんあるだろうけど、
絶対乗り越えられる。この子を守る。心の底からそう思った。


そしてもうひとつ、思ったこと。
妊婦時代に、見知らぬ人に手助けをしてもらったことが何度もあって、
その時、心から嬉しかったのを思い出した。
今度は、私が愛を返す番。
それから、助けが必要な人をみかけたら躊躇せずに行動できるようになった。


私は、産婦人科で救われた。
「産む」ということだけじゃない、
たくさんの愛をもらって、母として私も生まれたのだなと
本当に貴重な体験をさせてもらった。

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