ネットフリックス「地面師たち」で知る「わかりやすさ」の正体
遅ればせながら、Netflix 「地面師たち」を鑑賞しました。映画のように全編を一気に観てしまいました。
多くの人がすでに様々なメディアで言及しているので、今更付け加えることは少ないのですが、「地面師たち」を鑑賞して僕がもっとも感心したのは「わかりやすさ」です。
「地面師たち」は、実際にあった事件を参考にして書かれた小説を原作としています。
あくまでもフィクションですが、実際の事件がもとになっているので、現実の商慣習や犯行内容から大きくは逸脱していません。
観る人は土地取引や実際の事件について詳しい人ばかりではないので、わかりやすく説明する必要があります。
その説明が非常に秀逸でした。
冒頭で、ひとつの不動産詐欺を見せることで、詐欺のやり方や詐欺師の役割を観るひとにわかりやすく伝えています。説明口調がほとんどなく、モノローグも使わずに簡潔に説明しています。
最初に詐欺の手順を見せているので、詐欺事件のプロセスを理解してから、メインの事件をリアルタイムで観客は追うことができます。
この手法は「地面師たち」が最初に行ったわけではありませんが、この流れがあまりにスムーズかつ飽きさせない作りだったので、とても感心しました。
もうひとつは、人物の紹介です。「地面師たち」では、主人公以外の経歴はほとんど明かされていません。脇役のセリフはそれほど多くないのに、人物の性格や役割、バックグラウンドが観客に伝わる仕掛けになっています。台詞を吟味した脚本と役者の力量が大きく影響していると思います。
また、詐欺師グループ全員が一堂に会して、建築中のビル(?)からターゲットの土地を見下ろすシーンは、犯罪者なのにヒーローが全員集合したような錯覚を覚えます。登場人物の紹介とかっこよさを両立した良いシーンだと思います。
騙される側の描き方も秀逸です。
素人が考えても、大企業が詐欺師にどうして簡単に騙されるのか不思議に思いますが(現実世界で騙されているのですが)、「これなら騙されるな」と納得させる背景が簡潔に描かれています。
企業側は被害者ですが、観客は犯罪者である主人公側に共感に近い感情を抱いて観ているので、被害者を同情的に描きすぎても感情の持って行き場がわからなくなります。
かといって、犯罪者を正義の味方のように描くわけにもいきません。
その辺りの視点が絶妙なのです。どちらにも肩入れすることなく、バランス良い視点で描いています。
この視点の置き方は小説を描く上でとても勉強になりました。
小説は主人公視点で描くことが多いですが、三人称で描くことで登場人物から離れた視点から、物語を俯瞰することもできます。
群像劇を描くなら、そういった視点が必要になります。
今は、主人公視点の小説を描くことが多いですが、いつか群像劇を描きたいですね。そのときは、もう一度「地面師たち」を観てみようと思います。
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