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会社を辞めて小説家になることに妻が反対しなかった理由

勝手に敬愛している作家の岩井圭也さんが、このようなポストをしていました。

この後もポストは続いていて、岩井さんの奥様が「会社、辞めてもいいよ」と言って背中を押してくれたそうです。
当時の岩井さんは、デビュー4年目の兼業作家で、本は出していますが重版がかかったことがない作家さんだったそうです。それでも、家族のやりたいことを応援する奥様の姿勢は感動的です。
それから6年経った現在、岩井さんは直木賞候補になるほど大活躍されています。

ここで自分の話になります。
僕は5年前に20年以上勤めた会社を辞めて、専業作家になりました。当時の僕は、商業デビューしておらず、新人賞の最終選考にも残ったこともありませんでした。
岩井さんとは比較にならないほどリスキーな退職でした。

それでも、妻は会社を辞めることに反対しませんでした。
周りの人からは「よく許したね」と散々言われたそうです。そりゃあ、そうですよね、子供は小さいし、老齢の猫はいるし、当時の一家の収入の多くは僕のサラリーだけでしたから。
小説の賞をもらって、商業デビューした今ならまだしも、当時の僕は小説家になるなんて夢のまた夢でした。

そんな未来が見通せない状況で、妻が反対しなかったのは、専業作家に向けてそれなりに用意をしてきたからかもしれません。僕は酒もタバコもやりませんし、お金のかかる趣味もありません。家族と仕事以外は小説に全振りして生きてきました。

僕は働きながら、ずっと小説を書いてきました。20作品以上の長編小説を書き上げていました。全然書いていないのに会社を辞めて作家になると言い出したわけではありません。何十年も準備をしてきたのです。
当時、商業デビューはしていませんでしたが、Amazon Kindleの作品もそこそこ読まれていて、新人賞にも最終選考直前まで進んだこともあり、小説家になれる萌芽みたいなものは見えはじめていた時期でもありました。
だから、僕としては、ギャンブル的に会社を辞めたわけではなく、杜撰ではありますが計画的に退職したつもりでした。

結婚する前から、「僕はいつか小説家になる」と妻に言い続けてきました。妻としては「いよいよきたか」という感じだったようです。
この時期に退職を決断したのは、交通事故で死にかけて、自分の人生を見つめ直したことも大きかったです。

どんなに準備をしても、家族の反対を押し切ってまで退職して小説家を目指すことはできなかったと思います。
商業デビューして、(実績はまだまだですが)小説家と名乗れるようになったのは、あのとき妻が反対しなかったおかげです。

妻にしたら、「あの事故で死んでいたかもしれないんだから、好きに生きればいいんじゃない」という思いもあったでしょうし、ずっと僕の小説を読んできた彼女の中で「ひょっとして小説家になれるのでは」という直感が働いたのかもしれません。

あのとき反対しなかったことに感謝しつつ、改めて妻に訊いてみました。

僕「あのとき、どうして退職することを許してくれたの?」
妻「あなたは一度言い出したら、誰がなにを言っても意見を変えないじゃん」

な、なるほど、、、確かに。さすが我が妻、熟知している。

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