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小説家になるために早期退職して思ったこと

車に300m引きずられた事故に遭ったことで、人はいつか死ぬと改めて悟り、残りの人生をかけて本格的に小説家になるために20年勤めた会社を退職しました(小説家になった詳しい経緯は、こちら)。今でいうところのアーリーリタイアってやつですかね。

まあ、普通に考えて無謀ですよね。知り合いが言い出したら、「やめておけ」と言うでしょう。
昔は、新人賞を獲得した新人作家に対して編集者が最初に行う仕事は「今の仕事を辞めないでください」と諭すことだったそうです。小説の売り上げが減少している現在では、新人賞を受賞してすぐに退職する人はほとんどいないと思います。それだけ小説を書いて食っていくのは難しい状況です。
新人賞も受賞せずに、会社を辞めるなんて、無謀を通り越して、「あいつ、大丈夫かよ?」と周りからは不審に思われたことでしょう。

それでも会社を辞める決断ができたのは、それまでずっと準備してきたからでした。
中学からずっと小説を書き続けてきて、筆力が上がってきた実感もありました。
退職時にはAmazon Kindleで10冊以上の書籍を出版をしており、一定の読者がいました。
Kindleで出版する一方で、新人賞への応募をし続けていました。最初は一次選考も通りませんでしたが、会社を辞めると決めた頃には、二次三次選考を通過できるようなっていました。
とは言っても、最終選考に残っていないのに会社を辞めちゃうのは度胸がいいというか、無謀ですよね、やっぱり。

本気で小説家を目指すなら、そもそも就職をせずに若いうちからアルバイトをして書き続ける選択もあったかもしれません。
でも、そこまでの勇気が若い頃の僕にはありませんでした。当時はまだ自信もなかったですし、ちょっとズルかったのかもしれません。
若かった僕は働きながら、小説を書いて新人賞に投稿して、受賞したら会社を辞めて小説家になろうと決断しました。
その一方で、受賞してもしなくても専業小説家としてやっていきたい野望を抱いていました。そのために必要なのは、生活費です。兼業小説家が一番欲しいのは執筆する時間であり、専業小説家が最も欲しいのは安定した収入だからです。

当座の生活費を工面するために、新卒の頃から僕は貯金を熱心にしてきました。と言っても、大したサラリーをもらっていなかったので、酒もタバコもやらずになるべく無駄遣いをせずに節約してきました。
だから、辞めたのは事故がきっかけなので突発的ではありましたが、計画的でもありました。
そして、会社を辞めても大丈夫だという直感が僕にはありました。直感というと非科学的に聞こえますが、自身の実力を一番知っている自分に閃いた直感は信じても良いという経験が僕にはありました。

25年間会社で毎日働いてきましたので、辞めた当初は、時間の使い方に悩みました。退職当初は会社員時代の勤務時間の通りに働く(執筆)ようにしていました。
けれど、寝坊する日があったり、怠けてしまうことが増えてきました。そうすると、「今はみんな働いているんだよな」と罪悪感を抱き、また頑張ろうと朝は思うけど、やっぱりダメで落ち込む悪循環に陥りました。
もうまともに小説が書けないのでは? と思い、これからの長い人生を考えて焦る日もありました。

そこで、発想を変えて、時間ではなく「タスク制」にしました。毎日行うタスクだけを決めて、時間で働くことをやめました。
タスクには執筆だけではなく、インプットのための読書やランニング、筋トレ、家事など1日に行うべきあらゆることを追加しました。タスクは、iPhoneのリマインダーで管理するようにして、完了するとチェックをつけてタスクをひとつずつ消していきました。
タスクを全て消化すると、達成感があります。やるべきことを見える化したことで気持ちが安定して、執筆に向かうことができるようなりました。こうして、自分で設定したタスクを消化する生活が4年近く続きました。

結果的に、退職したときの直感は間違っていなかったと思います。
退職してすぐに「ふたりの余命」がヒットして、多くの人に読んでもらえるようになりました。
その「ふたりの余命」が編集の方の目に留まり、「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」として出版され、商業デビューすることができました。自分の小説が本屋に並ぶという子供の頃からの夢が叶いました。
その半年前には、「第12回ポプラ社小説新人賞」奨励賞をいただきました。嬉しいことに受賞した「夏のピルグリム」が7月18日に刊行されることが決まりました。

小説家として食っていけないうちに、仕事を辞めるのはリスクが大きいので、お勧めできる方法ではありませんが、若い頃から計画的に進めることで、リスクは緩和できます。
こういったやり方もあるんだなと参考にしていただければ、おすすめはしませんが。

著者初の単行本形式の小説「夏のピルグリム」がポプラ社より7月18日に刊行されます。「ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。よろしかったら予約してください。善い物語です!


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