ジェームズ・ボンドはブリッジの名手?『007 ムーンレイカー』を読む
コントラクトブリッジが登場する小説として有名な作品の一つに『007 ムーンレイカー』という作品があります。
「007」シリーズといえば、英国秘密情報部(Secret Intelligence Service、SIS。MI6とも)のエージェントであるジェームズ・ボンドが活躍するスパイ小説として世界的に知られていますが、なんと、この『ムーンレイカー』ではボンドがコントラクトブリッジで勝負するシーンが描かれています。
今回は、このブリッジのシーンについて紹介したいと思いますー。
この『007 ムーンレイカー』はイギリスの作家、イアン・フレミング(1908-1964)により1955年に発表されました。「007」シリーズでは3作目に当たります。
あらすじは日本語版の刊行元である東京創元社のウェブサイトから引用します。
ドーヴァーの岸にあるムーンレイカー基地では、億万長者ヒューゴ卿が国家に寄付する超大型原爆ロケットの製作が進行していた。そこへ前任者が謎の死をとげたため、保安係として特派されたのはおなじみ007、ジェームズ・ボンドである。彼が発見したムーンレイカーの秘密、それは大英帝国を震駭させる国際的な大陰謀だった。
(『007/ムーンレイカー』 <創元推理文庫 138-2>より)
これだけ読むと「ブリッジはどこ…?」となってしまいますが、実はこのロケット事件の前に、「コントラクトブリッジのイカサマゲーム対決」のシーンが描かれています。その冒頭部分を簡単にまとめました。↓
私財を投じてロケットを製作し、イギリスに寄贈しようと申し出た国家的英雄ヒューゴ・ドラックス。そんな彼が「社交クラブのブリッジでイカサマをしている」という疑惑を伝える情報が情報部長官「M」のもとに入った。それが本当なのかを確かめるため、ボンドはMとともに社交クラブへ潜入し、ブリッジ対決に挑む…
このブリッジのシーンは本作の中心人物である「ヒューゴ・ドラックス」の人物像を描く場面として、とても面白いシーンだと思います。そして、ヒューゴの様子を伺い、イカサマを暴こうとするボンドの活躍ぶりも楽しめます。また、このシーンの舞台となる会員制クラブでの社交の雰囲気がなんとも貴族的で、賭博はよろしくありませんが、憧れてしまうようなところもあります。
が、ブリッジ愛好者の立場から見ると、オークションのコールや手札の内容など、ブリッジのゲームの様子が事細かに記述されているところが良いと思いました。誰がどのような手札を持っていて、どのような勝負をして、結果どうなったかというところまで、ブリッジの用語を使いながら述べられているので、まるでゲームの様子が目に浮かぶようです。
個人的に面白いなと思ったのは、オークションの際に使用するビッドを日本語訳する際に、「クラブを三組」「切り札なしの二組」というように、勝ち越し数を「組」と表現しているところです。時々「切り札なし」に「ノートラ」というルビがふってある箇所があるのですが、原書ではどのような表現になっているのか気になります。
ヒューゴとボンドのブリッジ対決の最後のゲームについては、そのハンド(手札の内容)の図が挿入されています。ネタバレになってしまうので掲載は控えますが、イカサマのトリックも含めて、ニヤニヤしてしまうこと請け合いです。
今回は『007 ムーンレイカー』のブリッジ対決のシーンが面白い!ということでご紹介しました。実は、小説を読む前に1979年に公開された映画版を見たのですが、映画ではこのブリッジのシーンがカットされており、がっかりしてしまいました。調べたところ、映画版はストーリー自体がかなり改変されているそうです。『007 ムーンレイカー』が気になった方は、是非小説版の方を読んでみてくださいーではー。
この記事が参加している募集
サポートはコントラクトブリッジに関する記事執筆のための調査費用、コーヒー代として活用させていただきますー。