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転職準備で「WILL」を言語化する#1

 前回<医師転職での「病院分析」と「マッチング」のコツ>では、MUSTを分解して「WILL」「CAN」「CULTURE」とし、自分との「接点」を探すのがマッチングのコツと書きました。
 今回からは「WILL」「CAN」を「言語化」する方法について考察します。
まずは「WILL」をどう言葉にするかです。

「WILL」は「なりたい未来」の条件

 「WILL」で言葉にする内容は「自分がやりたいこと」や「なりたい未来の姿」です。転職なので仕事中心に考えます。まずは自分が興味をもってやってみたい仕事、その実現のための「環境」、報酬としての「年収」を書き出します。会得したいスキルや、追求したい治療法や研究テーマがあれば、真っ先にそれが浮かぶでしょう。理想とする人物、ロールモデルがあるなら「あの人のような生きかた」もヒントになります。

 「なりたい未来の姿」には、仕事以外にも、家族との関係や健康状態、趣味や学び、地域や社会への貢献など様々な希望があります。たとえば「WILL」として「十分に睡眠がとれる」「土日の休みには釣りにいく」「週3日は定時帰宅する」も入れて構いません。
 紙に書き出す、PCにタイプする、スマホの音声認識で整理するなどして、希望条件をすべて書き出します。書き出した希望条件には「優先順位」をつけて「WILLリスト」にします。

転職活動は自分を売る「セールス・プロモーション」活動

 「WILLリスト」で重要なのは、希望条件に「優先順位をつける」ことです。優先順位をつけるのは、下位の「譲れる条件」を見切るためです。
 医師は売り手市場です。しかし転職の際、すべての条件を満たす求人に巡り合えるのは「運の強い人」です。もし、希望年収や待遇条件が明らかに相場を超えたなら、その転職活動は停止します。希望条件を緩和するか、その条件で見つかるまで待つかになります。
 転職活動は、自分を売るための「セールス・プロモーション」と捉えたほうが上手くいきます。

 転職活動をセールス・プロモーション風にとらえると以下のようになります。

  • <ターゲット> 自分に来て欲しい病院の中から

  • <ニーズ> 自分が期待されることを把握し

  • <ベネフィット> その期待に自分がどう応えるかを選択し

  • 「自分の希望(WILL)」を一番多く満たすところを選ぶ。

  • <キャッチ> 先方のニーズに、自分の接点が多いことをアピールし

  • <クローズ> 条件調整を経て、採用される。

「WILL」が浮かばないときの2つの対処法

 ところが実際に「WILL」を出そうとしても、何も浮かばないことがあります。多忙だと「自分の希望」を考える時間の余裕はありません。医局で年数を重ねた先生が「洗脳状態」と自嘲されましたが「何か違うな」と思いながらも「そこそこ快適な状態」が続くと、考えることをしなくなるのかもしれません。

 「WILL」が浮かばない場合は2つの方法を試してみます。
1つは個人の価値観「VALUES」から確認するやり方です。自分が何に価値を置いているかを認識して「WILL」の条件を言語化します。ここでは、よく知られている分析ツールである「キャリアアンカー」を使います。

 もう1つは、前に「逃げの戦略:エスケープ」で触れた「ネガポジ反転」です。これはネガティブな理由をリストにして「なぜ嫌なのか=WON'T」の問いを繰り返し「真因」まで深掘りする方法です。その後でネガポジ反転し「WILL」を紡ぎます。

対処法① キャリアアンカーで「譲れない価値」を確認する

 「WILL」の条件を言語化する前に、自分が何に価値を置いているかを知ることが大切です。 そこでよく使われるツールが「キャリアアンカー」です。「キャリアアンカー」とは、米国の組織心理学者エドガー・シャイン博士が提唱した概念で、職業選択において「譲れない価値観」を人生の錨(アンカー)として捉えたものです。

 自分のキャリアアンカーを知ることで、自分がやりたいことや興味のある分野をより深く掘り下げることができます。自分が大事にしたい価値観や動機を明らかにすることで、そこから「WILL」を書き出すことができるかもしれません。
 キャリアアンカーの詳しい説明は他に譲りますが、正確に知りたい方は「キャリア・アンカー自分のほんとうの価値を発見しよう」(白桃書房)をご覧ください。ネットで「キャリアアンカー」で検索すれば、簡単なテストが見つかるのでやってみてはいかがでしょうか。

キャリアアンカーの8つのタイプ

 キャリアアンカーは以下の8つのタイプに分類されています。ここから「自分が譲れない基準」は何かを見つけます。テストをする前に予想がつくかと思いますが、点数化すると意外なコンピタンスが浮かび上がることがあります。キャリアアンカーはどれか一つを選ぶのですが、1位と2位を併せて考えたほうが良いと思います。

■ 専門・職能別能力(Technical/Functional Competence)
専門的な技術や知識を身につけて活かしたい
■ 経営管理能力(General Managerial Competence)
組織やチームを率いて目標達成したい
■ 自律・独立(Autonomy/Independence)
自分で決めたことを自由に実行したい
■ 保障・安定(Security/Stability)
安定した収入や地位を得て安心したい
■ 起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)
新しいものやアイデアを生み出したい
■ 奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a Cause)
社会や他者のために役立ちたい
■ 純粋な挑戦(Pure Challenge)
困難な課題や競争に挑んで成果を出したい
■ 生活様式(Lifestyle)
仕事とプライベートのバランスを保ちたい

キャリアアンカーに沿ってWILLを書きだす

 見つけたキャリアアンカーに沿って「WILL」の内容を考えます。たとえば、自分のキャリアアンカーが「専門・職能別能力」に一番高い点数が出たとします。このタイプは専門能力と技術スキルの向上に重点を置く傾向があります。

 もし先生が消化器内視鏡の専門医なら、そこで行われる手技や使われる装置、コメディカルの練度、担当できるコマ数、対応できる症例を「WILLのリスト」に書きだすでしょう。
 自分の知識やスキルに誇りを持つタイプなので、そこで高度な医療ができるなら「やりがい」を感じるはずです。反対に、上下部内視鏡検査や内視鏡処置がない職場だと自分の能力が生かせないと感じるでしょう。

 一方「保障・安定」のコンピタンスが高くでるなら、安定した環境や収入を重視しています。特に将来のキャリアに対するリスクを最小限に抑える考え方が強いタイプとされます。
 このタイプは「給与や雇用が安定していること」「福利厚生が手厚いこと」を優先します。 生活基盤が保障されたうえで、仕事、健康や家族、趣味や社会貢献などの「WILL」がリストに書かれるでしょう。

 あるいは「生活様式」コンピタンスが高いなら、ワーク・ライフのベストなバランスを常に考えるタイプです。自分の時間を大切に、趣味や家族との時間を最優先します。たとえば「昇進」とされる異動であっても、家族に負担がかかるなら辞退します。
 このタイプは、組織や専門性より「人生をどう生きるのか」にアイデンティティの重心があるので、労働条件としてフレキシブルな対応を求める傾向があります。勤務時間が比較的短かったり、定時帰宅できることが条件になります。
 実感的には30歳代以下の医師に増えてきているようです。またキャリアチェンジで転職される中堅以上の医師や、ワンオペで子育てされる女性医師もこのタイプにあたる方が多いと思われます。

 その他にも、管理職としての能力を発揮したい「経営管理能力」タイプ
他者へのサポートや支援の提供に喜びを感じる「奉仕・社会貢献」タイプがあります。ここには社会起業家を目指す人も含まれそうです。
 また自分で判断し、自己責任で仕事を進めたい「自立・独立」タイプなら開業やフリーランスの選択が増えそうです。
 自分のビジネスを立ち上げることに興味をもつ「起業家的創造性」タイプなら、医療以外のビジネスアイデアでもその実現を目指すでしょう。
 敢えて困難な状況に飛び込んで挑戦する「純粋な挑戦」タイプは「起業家的創造性」タイプに似ていますが、事業の成功にはあまり興味がないようです。困難な研究や実現の難しそうなベンチャーに打ち込むことに喜びを感じるとされます。

 いずれにしても、自分の「キャリアアンカー」を使って、自分が大事にしたい価値観や動機づけとなる要素や条件を「WILL」に書き出していきます。
 こうした「WILLリスト」を作成して「未来価値」を実現するプラン(キャリアプラン)を考えていきます。

次回は「ネガポジ反転法」について書きます。


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