見出し画像

フランクリンの十三徳樹立から自己批評の習慣を学ぶ

ベンジャミン・フランクリン。アメリカ建国の父の一人と称される、言わずと知れた歴史上の人物ですね。

最近、岩波文庫の『フランクリン自伝』を読み始めました。これまで多くの青年に偉大な影響を与えてきた優れた人生教科書だと解説の説明にあります。アメリカを理解するための必読書だとも言えるそうです。


『フランクリン自伝』を読みたくなったのは、この記事を読んだからです。


『フランクリン自伝』を読んで、真っ先に目が向いたのは、「十三徳樹立」の章です。
十三徳樹立。これはフランクリンが25歳の時に彼自身が十三の徳を掲げ、それを実行したのです。
言うなれば、
「持って生まれついている好ましくない癖や習慣を意識的かつ計画的に変え、人間として成長するために徳を高めようと努力しようとした証」
フランクリンの自己改善の記録だと言えます。
私は、この十三徳樹立の説明を読んで、これは自己批評の習慣と言えるのではないかと思いました。
これまでこのnoteで書いてきた自己批評の習慣は、ストア派の訓練法に立脚したものです。一方、フランクリンの十三徳は、ピタゴラスの金言集を参考にフランクリンが練ったのだそうです。
しかし、ストア派の訓練法とピタゴラスの金言集、およびフランクリンの十三徳樹立の実行はその日の言動や習慣を内省し、一日を一定の手続きで振り返るという点では、類似しています。

フランクリンの十三徳樹立を次に一部引用してみます。

第一  節制  飽くほど食うなかれ。酔うまで飲むなかれ。
第二  沈黙  自他に益なきことを語るなかれ。駄弁を弄するなかれ。
第三  規律  物はすべて所を定めて置くべし。仕事はすべて時を定めてなすべし。
第四 決断  なすべきことをなさんと決心すべし。決心したることは必ず実行すべし。
第五 節約 自他に益なきことに金銭を費やすなかれ。すなわち、浪費するなかれ。
              (中略)
第十三 謙譲 イエスおよびソクラテスに見習うべし。



松本慎一・西川正身訳『フランクリン自伝』岩波書店

ピタゴラスは門弟たちに道徳律を課し、毎日、朝と晩に自己の良心を検査せよと命じたと伝えられる。

同書(p.160)

フランクリンは曜日を横軸に、十三徳を縦軸にして表にプロットして、実行できなかった日にはバツ印でチェックし、徐々に達成していくように工夫を凝らして実行していったのです。詳しくは岩波文庫の『フランクリン自伝』を参照してみてもらえればと思います。
このフランクリンの実行方法ですが、このようにクエスチョン形式の方法に変えることもできます。

フランクリンのQuestion (編集版)
Q1. (節制)腹八分目で食事を終えたか?
   油ものや間食を控えたか。
Q2.  自他に益なきことを語らなかったか?駄弁をしなかったか?
Q3.自他に益なきことに金銭を費やさなかったか?
  浪費しなかったか?
Q4. 時間を空費しなかったか?時間を有効に使えたか?
Q5.人に対して誠実に接すことができたか?
Q6.身体・衣服・住居を清潔に保てているか?
Q7. 日常のコントロール外の出来事に平静を失わなかったか?

こうしてみると、もはやストア派哲学者のセネカが実践していたようなストア派哲学の訓練法とほとんど変わりません。
要するに、形式は本質ではないのです。達成できるように工夫でき、実際に達成することが重要なのだと思います。
Q1の節制で、腹八分目と明示しています。この「腹八分目で食事を終える」
というルールは、貝原益軒の『養生訓』の養生法に書かれています。
Q3.は、「買い物を賢約できたか?節制できたか?」という私自身が自分の自己批評で定めていた項目と同じでした。この賢約という言葉。知の巨人の出口治明先生が「お金の教養」のご著書で使っていた言葉です。値を比較・検討して賢く倹約するという意味です。フランクリンの意図した意味で捉えることもできます。
フランクリンの十三徳の十三番目の謙譲。これは端的に言えば、驕ることなく謙虚に控えめにふるまうという姿勢なのですが、歴史上の賢者であるソクラテスとイエスを模範にしたのです。
これについては非常に共感できるとともに、大切な姿勢だと考えます。一時期、日本のネット空間でも、「論破」というワードが頻出したみたいです。これはフランクリンがこの自伝で述べている、彼自身が反省し、悪癖だと断じたふるまいそのものです。
問答法の元祖にして、対話の達人、賢者ソクラテスがいつも議論に旗を上げたのは、ソクラテス自身の相手の真意を徹底的に理解したいとする意図と姿勢によります。ソクラテスは相手との議論に勝つことなど最初から望んでいなかったのですね。有名なエピソードですが。
つまり、最高の賢者は最初から争わずに相手を説得したり、相手から学ぶことを何よりも重視したということです。フランクリンが語っていますが、彼はこの謙譲を意識したことで、対人関係が良くなったそうです。印象的なのは、「議論を相手に譲ることで、よい人柄と友情が得られた」というようなエピソードです。

フランクリンの十三徳樹立。これはロールモデルとして、自己批評の習慣に活かすことができることがわかりました。
ベンジャミン・フランクリンが後世のためにのこし、「多くの青年に偉大な影響を与えてきた優れた人生の教科書」。
この書物は、立場や国境、時代を越えて、人生に生かせる教訓に満ちています。

ご清聴ありがとうございました。

【参照記事】


この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?