見出し画像

名言集の魅力を語ってみた(読書論エッセイ)


最近、名言集の魅力にはまっています。今回は、私が座右に置いている、生きる指針に満ち溢れた名言集の書籍をレビューしたいと思います。

はじめに

私が名言集を手に取るとき。それは、喧騒から離れ、静かに、ふと力を抜いて、智慧の温かみを感じたいときである。例えるなら、祖父と一対一で対話するようなものだろうか。感覚としてはそれに近い。ただ、名言集の対話相手は、古人である。名言というその古人の経験知の全総体が雪結晶の欠片のようにメディア(媒体)に偶然発露するという幸運の末に、数百年、場合によっては、千年以上の時を経て、自分の心に届く。そういう歴史的な感覚がある。

まずはこの一冊から。

一日一文

この本が素晴らしいのは、古今東西の幅広い分野の哲人や詩人のあえて有名どころではない言葉が集められているところ。古代ギリシアから近現代まで、歴史的スケールも大きい。一年365日分が収録されており、一日一文のペースで忙しい日常の折にも読み進められるというコンセプト。激動期を生きた先人の名文だからこそ、本書の帯にあるようになぜか「生きる勇気」をもらえます。

ベーコンの名言集

フランシス・ベーコン。ニュートンと並ぶ17世紀科学革命の立役者の1人にして、啓蒙主義者の永遠の知的巨匠。
本書の存在を最初に知ったのは、岩波文庫のベーコンの随想集を耽読し、ベーコンとブッダの哲学書評を書いている最中だった。
ベーコンの随想集は、含蓄に富み、見識高き古典なのだけれど、決して読みやすいとはいえなかった。よく嚙みしめないと味わいがでない、というようなことを日本人の偉人の誰かが言っていたけれど、まさにそんな感覚である。本書を除いて、ベーコンの名言集はなかなかないのではないだろうか。
しかも本書のクオリティと完成度の高さには驚いた。おそらくベーコンにまつわる有力な文献を漏らしていない。巻末の文献案内も含め、最良のベーコン入門になっている。
コンパクトかつ名言の一つ一つは短めなので、通勤や通学の合間にも、難なく目を通して、理解できる設計。
例えば、Ⅱ章・仕事の極意、Ⅲ章・知性を磨く極意など、社会人や学生はもちろん、ベーコンの智慧に触れたい幅広い読者が楽しめる作品となっている。購入者特典の英語圏でよく引用されるベーコンの名言英和対訳は嬉しかった。

ハマトンの名言集

本書は、今から150年前、明治維新直後に書かれたハマトンの『知的生活』のエッセンシャル版。
上のベーコンの名言集と同じディスカバートゥエンティワンから刊行された作品。このシリーズには他にも仏陀やカーネギー、『自省録』など、偉人の言葉のエッセンシャル版の作品が続々と出ている。小中学生からでも十分読める内容だと感じた。もちろん、大人が十分愉しめるクオリティ。
ハマトンは知的生活の元祖で、現代の私たちにとっても真価のある言葉がたくさんある。
11・「どんな薬も運動に勝るものはない」をはじめとする2章「健康こそが知的生活の基盤」は白眉だった。私の小学時代、丸一日机にかじりついて勉強させる講習のあるちょっとブラックなスパルタ的な学習塾兼受験塾があった。少しの休憩があるとはいえ、数時間以上も座位で詰め込ませるような、青少年の知的健康に害であることが確実な環境だったのを今振り返って思う。(しかも講師が怒り心頭で、ほんとうに精神衛生上よくなかった。)

ギリシア・ローマの名言集

西洋哲学の源泉、「ギリシア・ローマの名句から、三三九句を選び、編者が自在に語る」名言集。見出しでさがして拾い読みしても、通読しても楽しめる一冊」だと本書にある。
名言はどんなに時代が経っても、たとえ混沌とした世界にあっても、道案内の心強い味方になってくれる、不朽の叡智を秘めた人生知の宝庫である。味わい深い言葉に出会うと自分の思い込みや束縛から精神が開放され、緊張が抜け、和んだり、新たなアイデア観に開眼する瞬間が私にはある。
人間の豊かな感性や経験の重みの価値というものは、AI時代の今日にあっても、知のビックバンが起こったギリシア時代から変わらないどころか、むしろ、さらに重要になっている。それが古典を身につける価値だと考えている。
古典は人間的な感性の豊穣、経験的な成長の基礎的な栄養素である。
私の好きな大プリニウスの言葉が収録されているのも嬉しい。例えば、大プリニウスの勉強法にまつわる名句。

最後は、この一冊。

中国古典の名言集

この作品については、以下の記事でレビュー済み。リンクを貼っておきます。4800余の名言が精選されていながら、コンパクトサイズでたのしめる。私自身は古書店で購入しました。


まとめ


名言集の魅力は何か。一言でいうならば、生きる勇気や生きる活力をもらえる点に尽きると思います。それは、人生の辛酸も、大きな、あるいは小さな喜びも、知的達成も、悲しみも、さまざまな困難も、想定外の幸運も、生きるとは何かということの中身を噛み締め尽くし、人生をまっとうした智者だからこその言葉の数々。
古典、名言集を手に取ることは、そうした言葉をこの実世界での経験と擦り合わせ、長い時間をかけて、さらに深めていくプロセスの結節点なのだと思います。名言を読むという経験が、自分の経験知に実る過程こそが、その醍醐味なのかもしれません。


ご清聴ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?