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哲学者ベーコンの養生法が現代性があり、驚く。ベーコン流知的生活のすすめ。

昨夜、以前古書で買った、岩波文庫の『ベーコン随想集』を紐解いていたら、「養生法」の章がある。イギリス経験論の祖で、近代科学の立役者の1人でもある、哲学者フランシス・ベーコンの養生法。とても気になる。養生法の意味はこちら。「健康を維持したり、健康を管理したりして長寿を全うするための方法の総称」

フランシス・ベーコンについてはこちら。

偉大な哲学者ではあるけれど、現代医学成立以前の、400年も前の人間に健康の秘訣について何かを求めるだろうか?
そう思う方がいてもいたっておかしくはない。現代において、健康について何か知識や情報を求めるならば、医学の専門家である医師の発信や助言に従うのが妥当というか、一般常識であると思う。この記事も当然ながら、健康情報の発信を目的にしていない。
けれど、ベーコンの養生法は、現代人が読んでも、そこまで珍奇には映らないかもしれない。少なくとも、私が読んだ限り、奇異には思えなかった。簡単に抜粋してみたい。

食事や睡眠や運動の時間にのんびりかまえて快活にしていることは、長生きする最もよい教えの一つである。
心の激しい動き(情念)や熱意(欲求)について言えば、妬み、気ぜわしい恐れ、内攻する怒り、こせこせした煩雑な詮索、喜びのあまりはしゃぎすぎること、人に言えない悲しみは避けるがよい。

『ベーコン随想集』岩波書店、p.145より

心の激しい動きを避ける。食事や睡眠や運動時にのんびり快活に過ごす。400年前の人間ではあるのにある程度は現実的に思えるのは私だけだろうか。
激しさは避け、穏やかに過ごすという点は、後期ストア派のエピクテートスの人生観とも共通点があるように思える。

他にも、「睡眠を心がけること (p.146)」「体を動かすことを心がけること(p.146)」「食事は肝腎な点で急に変えないように気をつけるがよい。(p.144)」「老年になるのをしかと弁えて、いつまでも同じことをしようなどと考えないことだ。年には勝てないからである。(p.144)」

ベーコンは睡眠と運動をすすめており、
この点に関しては、現代の健康常識と一致しているように思える。

そして、この記述がすこぶるユニークで面白い。

希望、歓喜よりもむしろ快活を、快楽の飽満よりもむしろ変化驚異および感嘆をしたがってまた新奇なものを、さらに歴史、寓話、自然の観察のような、心を輝かしいすぐれた対象で満たす研究を受け入れるがよい。

『ベーコン随想集』岩波書店、p.145より

ベーコンは健康の秘訣に心が輝くような快活な研究ライフと知的生活をすすめている!
私はこのアドバイスに深く共感を覚える。この「すぐれた対象で満たす研究」というのは、在野研究 (・在野研究とは組織に必ずしも属さない研究を意味する) とも解釈できるのではないだろうか。なぜなら、ベーコン自身が当時の既成の旧体制的なアカデミアと対決し、独学的な方法を模索した革新的イノベーターだったからである。だとしたら、ベーコンは在野研究をすすめていると解釈できることになる。在野研究は、趣味として学ぶことを許容しているとも拡大解釈したい。
自然観察と歴史の研究をすすめているのも、素晴らしい。自然豊かなゴランベリー・ハウスで多感な少年時代を過ごし、稀代の歴史家トゥキディデスの『ペロポネソス戦史』をトマス・ホッブズに訳すように指示したベーコンである。自身も、自然観察と歴史研究に造詣が相当深かったことは想像に難くない。今日の人生100年時代においても、自然観察と歴史研究を健康的な快活的生活のすすめとしてたしなむことは、現実的かつ魅力的に思える。

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