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2度目の就職の話 【面接編 ③】

事務部長は笑顔で尋ねてきました。
「チームって、やっぱり高校の同級生で編成されてるのかな?配置は?」
私は言葉に詰まらせながら、
「…はい。卒業した高校の集まりみたいな感じです。私はレギュラーメンバーではなくマネージャーですが、練習のときはみんなと一緒に汗を流しています。」
すると、更に事務部長が突っ込んできました。
「いつもどのあたりで試合しているの?」
私は実際に何度か試合で行った土地の名前を答えますが、ある土地の名前を答えたときに事務部長が、
「そこには障がい者のスポーツセンターしかないはずだけれど、そこなの?」と尋ね、私はどきっとしながら、
「間違えました。その近隣の〇〇でした。」と咄嗟に訂正したのです。

実は専門学校2年目の秋から、親友を通じて知り合った男子の身体障がい者のローリングバレーボールチームのマネージャーをしていたのでした。
ローリングバレーボールは基本障がい者スポーツですが、身体的に健常な人でも一緒に楽しめるハードスポーツです。
マネージャーを始めた当初は女子ということで主将や優しいメンバーたちが構ってくれていたものの、元々運動能力、コミュニケーション力共に低い私にとって、自分から輪に入ることも、技術を磨くことも出来ず、仕舞いには練習や試合を見ているだけの人になってしまっていたのでした。
見かねて、一緒に練習していた他のチームのマネージャーが私の所属するチームのマネージャー的な働きをして下さり、それで充分なのか、いつしか試合や集まりにさえ呼ばれないといったことすらありました。
そんな状況なのに、サプライズのつもりで呼ばれていない試合に溶けやすいアイスの差し入れを持っていったり、ちぐはぐな行動ばかり取っていたのです。

バレーボールにしても、ローリングバレーボールにしても、胸を張って趣味と言えるものではなかったのです。
本当の趣味は詩を書くことでしたが、面接では最大限に快活に振る舞い、内向的だと思われることを畏れていたのです。

最後に技術部長が一言、
「前職を1か月半で辞めた理由は何かな?」
私は正直に、
「職場の雰囲気に馴染めませんでした。」と答えると、
技術部長と事務部長が目を合わせながら、
「そういうこともあるよ。あとはいつから来てもらうかかな。」とその場での採用が決定しました。

事務部長が最後にひと言。
「バレーボール好きに悪い人はいないし。いつかうちのチームと一緒に試合しよう。頼むよ。」

こんな取り繕った自分は実際の勤務が始まると、イメージが崩れていくしかないのかも知れない…そう、予感しつつも採用が決まったことに安堵するのでした。
そして、その後訪れる波乱の日々の中で、いつのまにか事務部長がバレーボールチームのことについて尋ねてくることはなくなりました。


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