見出し画像

【短編】髪、おろして。散歩しよ。

ゆうき先生と散歩した。

最近、更年期の症状がひどくて、
しんどい毎日。

わたしは、イライラするとか、
日中のホットフラッシュという症状は無くて、夜中の3時頃に変な夢を見て、
ドキドキして目覚めてしまって、
その後うつうつしながら6時を迎える毎日。

悪い意味で落ち着いている。
ネガティブなオフモード。

仕事で「?」なことがあっても
「もう、いいか。」と、
折れる事ができる。
受け入れることができる。

結果、
誰ともトラブルも軋轢もなく、
それなりに過ごせてる。


わたしはアスリートではないので、

「専属」

とは言えないけれど
ゆうき先生とはもう1年の付き合いになる。

最近の低調なわたしを彼は気づいていて。

今日のパーソナルでは、
とりあえず、鍼灸治療を少しだけ施して、

「美伊さん、外に出ましょ。ゆっくり空気吸いましょ。お散歩いきませんか?」と。

フロントの女の子に、
「ちょっと、美伊さんと散歩。」と。

横にいたトレーナーさんも
フロントの女の子も「?」な表情。


夕方の公園は少しだけ肌寒い。


「美伊さん、髪おろして。リラックスしよ。」

わたしは、そっと髪をおろした。

そして、ゆうき先生の半歩後ろを歩いた。

ポンポンと軽快なラリーの音が響く
テニスコートを見ながら歩いた。

他愛もない話をしながら。

ゆうき先生、
少しゆっくり歩いてもらえませんか??
早歩きになってしまうよ。

あ、ごめんなさい。

それから、

「いつもの美伊さんじゃなくて。。
         更年期って、、」と、
わたしの症状について
ゆっくりゆっくり、
ゆうき先生は質問していた。


28歳の彼は、
この更年期の真っ只中のわたしを
どう捉えているんだろう?

半歩前を歩く彼は

「ね、ゆっくり空気吸って。
       ゆっくり、ね、美伊さん。」

そう、ゆっくり。ゆっくり。

冬の夕方の冷たい風が
おろした髪に気持ちいい。
そして、深呼吸をした。


自転車置場の
わたしの黄色の自転車を指差し

「こないだね、美伊さんと同じ自転車を乗ってる人見たんだよ!」
屈託のない笑顔を見せたゆうき先生は
子供みたいだった。


年齢は正直にわたしに向かってくる。

でも、
もしかしてそれは
すごく当たり前で

オンナを素直にさせる恩恵かも。

そう気づかせてくれた、

冬の夕方の、散歩。




この記事が参加している募集

#休日のすごし方

54,315件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?