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花束みたいな恋をした

花束みたいな恋。

作品を観る前は、別れてから時間が経って記憶が色褪せたとしても、心には綺麗な思い出として残るって意味だと思ってた。

けど今は、綺麗なものだけを詰め合わせるような恋のことかなとも思う。まるで、しおれた花や見栄えに欠ける花が花束に選ばれないように。まるで、色鮮やかな花だけが束ねられているように。

LとR。
違う音が流れるLとRを合わせて一つの音楽を聴くのが愛。そして、同じ音楽を聴いているようで実は別々のものを聴いているのが恋。麦くんと絹ちゃんは、後者だった。

麦くんと絹ちゃんは、趣味趣向がとことん同じ人に出逢って、それを運命とした。そして、運命を傷つけるようなものには目を瞑った。

例えばガスタンクやミイラ展。お互い興味はなかったけれど、その感情は悟られないように完璧な運命を装った。

アニメの実写化やワンオクに対する発言。二人とも、自分が好まないものに対して認めようとする姿勢がまるでなかった。

きっとあの頃の二人は、人を一輪の花として尊重して、愛するという思考は持ち合わせていなかったのだろう。

パンがバターを塗った面から落ちるように、甘く取り繕った部分は次第に崩れていく。 

未来を信じる麦くんと恋の終わりを見つめる絹ちゃん。二人の間には最初からズレがあった。それを擦り合わせることもなく、次第に違う道を歩きだす。

明るい将来に期待して今の自分を犠牲にする麦くんと、
自分の気持ちに敏感で今を大切にする絹ちゃん。

そして、先輩の死。

絹ちゃんのお母さんの口癖。
働くっていうのは、お風呂に入ること。

先輩はお風呂で亡くなった。
社会に出て、溺れてしまった。
麦くんも、社会という暗い海に引きずり込まれていた。

目に入らぬよう蓋をしていた部分が溢れ出てきて、花束みたいな恋が徐々に解かれていく。

結婚式。楽しかった日に別れる。
良い部分だけに目を向けてきたことに対する皮肉かなと思った。

別れを惜しむ二人の目に、運命に恋する男女が映る。

きっとここで全てを悟って、花束みたいな恋を終わりにしたんだろう。

数年後、偶然同じカフェで再会する麦くんと絹ちゃん。隣には違う相手。

絹ちゃんは、恋人の「靴がほしい」との言葉に「選んであげる」と言った。違う靴を履く人の隣を同じ速度で歩いて行けるようになったことの比喩かと思う。

結局二人は結ばれなかったけど、素敵なハッピーエンドだったと思う。恋をして、愛を知る男女の物語。展開を音楽に頼っていなくて、生活音や無音の時間が美しかった。

私は今からストリートビューの奇跡を見つけに行くっ!

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