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メジロ獲り

メジロ獲り―小説
 虚士(きょし)が5歳(昭和30年) 頃の話です。早春のある日曜日、誠吾あぼ (兄)は、父に家の手伝いはしなくて良いから、弟2人の面倒を見るように言われました。
 
これを聞いた誠吾は、「しめた!メジロ獲りに行くぞ」と考え、虚士と虚士より3歳年上の修一に「面白い所につれて行くぞ!」言い含め、立木が残っていて、メジロがいそうな ”いたの浦” まで片道2.5Km程の道のりを歩いてメジロ獲りに行く事にしました。
 
 虚士と修一のポケットに、蒸かした唐芋を詰め込み、誠吾は、おとりのメスのメジロが入ったかごを持ちポケットには、造り貯めていた小瓶に入れた ”やんもち” (鳥もち)とナイフを入れ、朝8時過ぎに出発しました。
 

めじろかご


 途中のけじの浦までは、舗装こそしてないが、バスも通る整備された道路で難なく歩けましたが、そこから先は幅が60cm程しかない傾斜した山道で、誠吾はメジロかごを持ち、小さい虚士の手を引いて少しずつ歩いて行きました。
 
 ”いたの浦” が見える峠まで2時間ぐらい掛かりました。そこで虚士が「くたびれた!腹も減った!」と言ったので、休憩する事にして、虚士と修一は唐芋を食べました。
 そこから先へ下ると、”いたの浦” の田んぼがあります。その山際がメジロ獲り場所なのです。
 
 誠吾が、椿の花が咲いている林を見つけ、「良しここで獲るぞ!」と言うと、虚士と修一はもう歩かんで良かと思い、草むらに座り込みました。
 早速、誠吾は、おとりの入ったメジロかごを、木の枝に引っかけ、 真っ直ぐな木の枝を4本、ナイフで切って、その内1本には中央に椿の花を刺しました。
 
 田んぼの脇に水溜まりを見つけ、ポケットから ”やんもち” 瓶を取り出し水で手を湿らし、枝の先の方から右手で巻き付けて行きます。
 ”やんもち” の棒が、飛んで来るメジロの ”止まり木” となるような所に4本を配置しました。
 

鳥もち巻き


 3人とも、飛んで来るメジロから見えない葉陰に隠れます。誠吾が、おとりのメジロを鳴かして、野生のメジロをおびき寄せようと、口笛で「ツ-(これはメスの鳴き声)、ツイー(これはオス)」(オスは他にチュリー、ツヨリーとか鳴きます)と疑似鳴き声を発します。するとおとりのメジロが「キリッキリッ」と興奮したような音の後「ツー・ツー」と鳴き初めます。
 
 しばらくこの疑似鳴きを繰り返すうちに、林の中から「ツー・ツー」と言う声が聞こえて来たかと思うと、おとりのかごの上に乗り、次の瞬間かごから突きだした ”やんもち” に飛び乗りました。
 それを見た修一は、「掛かった」と言いましたが、誠吾は、「もう一匹き止まるから、シー」と言って待っていましたが、乗る気配は無く、掛かったメジロが暴れそうなので、獲りに行きました。
 が、これは「喉の毛が綺麗でないので、ツー(メス)だ」もう一匹の方がオスだったのです。
 
メジロのメスはさえずらないので、おとり以外には価値が無いのです。初回はつがい(カップル)のメジロが来ていた様です。それでメスは逃がしました(リリース)。
 
 少し気温が上がったせいもあり ”やんもち” が垂れぎみだったので、湿らした手で整えて2回目に挑戦します。
 また誠吾を先頭に3人とも葉陰に隠れます。虚士が口笛を吹こうとしますが、「スースー」言うばかりで笛になりません。誠吾が「ツイー・ツイー」とおとりに向かって吹くと、しばらくして、おとりのメジロが「キリッキリッ」と興奮した後「ツー・ツー」と鳴き初めました。
 
 しばらく口笛を吹いていると、向こうの山から小さな鳥が群れをなして、こちらに飛んで来るのが見えました。
 とたんに虚士達の居る木の枝をチラッ・チラッする小動物の姿が垣間見えます。10数匹のメジロの群れが来ているのです。おとりのメジロも興奮して「キリッキリッ」と言っています。皆んな緊張しました。
 次の瞬間、椿の花を刺した ”やんもち” に2匹同時に乗りました。するとメジロかごに刺した ”やんもち” にも3匹乗りました。誠吾は慌てて駆け寄り、3匹を両手で掴み取り上げ、メジロの足に付いた ”やんもち” を素早く自分の口で取り除き、おとりかごに入れました。
 
 2匹のメジロは時間が経って、”やんもち” が柔らかくなっているので、ぶら下がり、その上暴れて羽が、”やんもち” にくっ付いてしまいました。誠吾は両手でメジロを掴み、”やんもち” 取り除きに苦心しましたが、5匹の内2匹は、メスだったので逃がしました。
 
 太陽が傾き初め、もう午後2時ごろになっていたました。虚士が「腹んへった!」と言いましたが、誠吾は、「弁当は無か、唐芋は食ってしまった、よし!もう帰るぞ、家に着いたら何か食えるぞ!」と言って急かしましたが、「もう歩けん!」と言って泣き出しました。つられて修一も「おりも腹んへった!」と言って座り込みました。
 
 困った誠吾は考えました―――。
メジロかごの上に、えさ用に押し着けていた、唐芋を取り出して「これを食え!」と弟2人に差し出しました。2人はメジロが食いかけの唐芋を美味しそうに食べながら、家路に着きました。
                      終わり
(この話は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので ”小説”としました)
 
後書き
 メジロは、みかんが大好きです。2つに輪切りにして、かごに押しつけたら良く食べます。しかし、ご注意!
ツーと鳴いていたのが、ヅーになり
ツィーがヅィーに
チュリーがヂュリーに、訛ります
 
追記
2011年、鳥獣保護法改正により、愛玩目的でのメジロの捕獲、飼育は完全に禁止されています。

メジロ獲り歩行路

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