ターゲットを落とせ!
ターゲットを落とせ! 小説
虚士(きょし)が小学4年生(昭和34年)頃の話です。夏の終わりのある日、2才年上で虚士自宅の山手方向の丘(鳥越と言う地名)に住んでいる五津(いず)さんが、竹ポンプを作って消防団ごっこをしないかと言って来ました。虚士は以前、何回か作った経験があり、必需品のビー玉(弁の役目)は持っていたので、即決で五津さんと遊ぶ事にしました。
竹ポンプ作りには他に、外筒(ハチク竹)、内筒(ヤダケ、メダケ)、布としばり糸(外、内筒の密封用)が必要です。虚士は早速、道具小屋から”なた(刃物)“を持ち出し、まず二人で五津さんの家の前にある、なるべく節間の長いヤダケを選び、内筒用に切断確保しました。
外筒用の竹はなかなか見つからず、山手に登って”どのうえ”、”つっかぐめ”と進みやっと、”温情山”で見つけました。内、外筒の竹を確保して自宅に帰り着いた時は、すでに正午を過ぎていましたので、昼食後に後の作業をする事にしました。
まだ潮が引いていたので、虚士の自宅下の”平瀬”で竹ポンプ作りを始めました。まず鋸で、外、内筒を一節残して切りそろえ、外筒の節側(下側)に水がスムーズに入るように、切り込みをいれます。次にナイフでささくれ部分を、手になじむように削ります。
次は内筒の節と反対側の外側に、端切れ布を巻き付け、糸でくるんで締め付け止めます。
そして”きり”で外筒の節に大きめの穴を、内筒の節に小さめの穴を開けます。最後に内筒にビー玉を入れて、内筒を布の方から挿入すると連射竹ポンプの完成です。
まだ、調整が必要です。巻き布に潮だまり部分の海水を含ませて、外筒との密着具合が悪ければ、布を巻き直します。また内筒の穴を親指で押さえて引き上げ海水を吸い込み、親指を離して押し込み放水するのですが、吸い込みが悪かったら、外筒の穴を大きくして、放水が少なかったら内筒の穴を大きくします。
実射ゲームの前に、五津さんが的(ターゲット)をベニヤ板と竹で作り、先端に赤布を付け、石垣上段の隙間に、ターゲットを差し込み準備完了です。
この遊びのモデルは、自衛消防団の小学校校庭での消火演習です。当時はまだ手押しポンプ(写真参照)を使用していました。西組、と東組に分かれそれぞれ、バケツリレーの水汲み班、手押しポンプ班、ホース配置(転がし)と火消し筒先班、で構成された組織プレーで、一列に並び「始め!」の号令と共にすさまじい勢いで両組とも一斉に走り出して、それぞれ東西の方向に上げられた、赤布の付いた的をどちらが早く落とすかで、勝敗を決めるゲーム式の演習がありました。子供達はこのうち格好いい”火消し筒先の人”に憧れていました。
潮が満ちて”平瀬”を覆い、ポンプが使えるようになりました。五津さんの合図「よーいドン」で二人共、竹ポンプで噴射を始めましたが、なかなか落ちないので五津さんが低いところにターゲット移しました。
再び「よーいドン」で噴射します。五津さんが狙いを定め三連射した時、ぐらつき、四連射めで、ひらりと落としました!。
二回目も虚士は五津さんのまねをして、狙いを定めて噴射しましたがターゲットはびくともしませんでした。
悔しくて虚士はポンプを交換してもらって、もう一度挑戦しましたが、落とせません。
それでも諦めきれず潮が膝より高くなるまで挑戦しましたが、奮闘むなしく落とす事が出来ませんでした。潮水でびっしょりとなり、くたびれ果てた虚士にはターゲットの赤布があざ笑っているように見えました。
完
(以上は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので”小説”としました)
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