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考えよう。考えたい。

おはようございます!!! 書評行きます!!!

ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人 (角川文庫) 
KADOKAWA 2019年出版 中山七里著 336P

(以下は読書メーターのアカウント https://bookmeter.com/users/49241 に書いたレビューです)

著者初読。語彙がやや古めかしいことを除けば至極の社会派ミステリィ。作中で言及された東海大学安楽死事件は大学で研究したテーマ。同事件について書かれたノンフィクション「死への扉」も読んだ。私個人は基本的に安楽死の法整備に賛成しつつ、まだ議論が足りていないと考える。患者と家族の望みを叶えるためとはいえ命を奪う行為を医師に強いることに疑問がある。と同時に患者を救うべく手を汚した医師が殺人罪や自殺扶助罪に問われる現状も不条理。作中に出てきた様々な意見や解説で触れられている日本で制度化する際の危惧を頭に入れて要熟考。

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シリーズものの第四弾。でもこれから読み始めても問題はありませんでした。来月映画が公開されます。ちなみに私はマクドナルドで夕飯を食べていた時に主題歌を歌っているアレクサンドロスの店内放送を聞き、映画の公式サイトに飛んで興味を抱いて本を買いました。扱っているテーマは重いですけどリーダビリティに配慮した構成になっていて、幅広い読者に届けたいという著者の熱意を感じました。

先日高村薫「レディ・ジョーカー」全三巻を読了したのですが、すごくもったいないと思いました。間違いなく名作。でも組織の内部事情や各登場人物の背負っているドラマがあまりにも多岐に渡り過ぎていて、その全てを生真面目に取り込んでいくと疲れてしまうのです。ドキュメントならまだしも小説としてはもう少し情報を精査してスリムに絞り込む方が、もっと多くの人に届いたはず。分厚い本が駄目という意味では決してなく、そのボリュームに必然性があるのかということです。

この本の話に戻ります。テーマは「安楽死」です。
格差の広がる高齢化社会、医療費の高騰、老老介護の現状などを考えると、もはや他人事ではありません。安楽死を認める四要件(耐え難い肉体的苦痛、回復の見込みがない終末期、苦痛を除去する代替手段なし、患者の自発的な意思)が横浜地裁から出されていますが、まだ検討の余地がかなりあります。苦痛は本人にしかわからないものですし、精神的な苦痛は考慮に入れなくていいのか、本人の意思が不明瞭な場合の家族の意思はどこまで尊重されるのか、そもそも終末期とはいつからなのか、など。生きる権利があるのなら死ぬ権利だってあるのではないか、という議論もあります。

あと日本みたいに同調圧力が強くて「空気を読む」ことを常に求められるムラ社会的な国で認めると「本当は死にたくないけどみんなが死んで欲しいみたいだから」というケースを増やす恐れもあります。他人の生き方に干渉しない個人主義が長い歴史の中で確立されてきた欧米だからこそ許される制度ではないのか、と。

荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」の11巻で、カーズがリサリサに「自殺しろ」と言って「苦しまずに死ねる薬」をトスする場面があります。たぶん口から摂取するタイプなのですが、安楽死について調べていた学生時代に「あれがあったらいいのに」と思った記憶があります。もちろん安易に死を選んだら取り返しがつかないわけですし(又吉直樹「夜を乗り越える」にインスパイアされました)、仮にああいう薬を実用化する医療技術がすでにあったとしても、広く一般に流布させるのは危険です。でも終末期の「せめて安らかに最期を迎えたい」という思いを尊重する目的であれば、という気もするのです。作中ではそれを叶える手段として生み出された故ジャック・ケヴォーキアン医師による「自殺装置」も紹介されています。

このように私の中でもまだ明確な答えは見つかっていません。まずは気づいて考えること。この作品もそうですが、ケヴォーキアンを描いた映画「死を処方する男」も見たいです。

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