半沢直樹と「人が変わること」
あれは2012年の秋でした。読書メーターの記録によると、2012年9月6日読了となっています。ドラマが始まる1年前ですね。虎ノ門に当時あった「書源」という書店に「ロスジェネの逆襲」が平積みになっていまして。面白そうだなと思って衝動買いしたのです。よく覚えています。なぜ虎ノ門に行ったのかは全く思い出せないのですが(笑)
当時書いた感想をここにも載せておきますね。
半沢、いくらなんでもカッコよすぎ(笑)小説だからいいんだけど、現実にはこんな人いないよと思ってしまう。その意味では「下町ロケット」の方がより感情移入できた。でも面白かった。銀行業界の裏側、派閥や部門間の権力闘争、証券会社との関係、子会社への出向が持つ意味、そして株買付によるいわゆる”乗っ取り”のやり口など、非常に勉強になる。私もロスジェネだけど、悪い時代に生まれたなんて思ってない。バブル期入社の人間にぬるいのが多いのは事実だが、全部が全部そうでもないし。その辺は作者も同じ意見みたいで共感できた。
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遡る形で前の二作も買いましたし、続きとなる「銀翼のイカロス」も読みました。決して駄作ではないのですが、正直「ロスジェネの逆襲」ほどは熱くなりませんでした。逆に言えば「ロスジェネ~」は、同シリーズの別作品やドラマの国民的人気から切り離した単体の作品としても十分に楽しめるものだったのです。
9月に新作「アルルカンと道化師」が出ますが、おそらくドラマ化を経た後で書かれた小説内の半沢は、以前の彼とは違うと思います。東野圭吾の「ガリレオ」シリーズがそうでした。ドラマヒット後に出た作品では、明らかに福山さんのキャラクターが濃厚にフィードバックされていました。だからダメだというのではありません。ただ漠然と寂しいだけです。その形も悪くないけど、でも本来の良さと個性はそこじゃないのにみたいな。真・女神転生シリーズのファンがペルソナシリーズの大ブレークに対して抱く気持ちが、あるいはこれと似ているかもしれません。
とはいえ、作り手の変化や新しい挑戦を受け入れて応援するのもファンの務め。「あの頃が良かった」という人はあの頃の作品を読み返せばいいのです。「昔の方が尖っていて好きだった」という人には、いつまで盗んだバイクで走らせるつもりですかと質問したいです。世間から評価されれば角が削られるのは当たり前です。むしろそこで無理に昔と同じ尖り方をキープしている方が嘘でしょう。評価されたらされたで、きっと以前とは質や角度の異なる尖り方をしているはずですし。でも昔からの熱心なファンの一部には、必ずと言っていいほど、そういうところを見ようとしない層が含まれているのです。
2016年にボブ・ディランがノーベル文学賞を受け取った際、みなさんはどう思いましたか? 私の結論は一言「カッコいい」です。大人を信じるなと訴えていた時代の彼なら間違いなく断ったでしょう。でも昔と比べて発言や行動が矛盾しているぐらいの方が私は信用できます。それこそが軸がぶれていない証だと思うからです(もちろん品格の劣化というか、あまりにも変節が極端なのは別ですけど)。だってそうでしょう。二十代と六十代では見た目も体調も年収も住所も家庭環境も毛の本数も何から何まで違うのに、考え方だけが変わっていないなんておかしいじゃないですか。アイツは変わったと裏で囁かれるのが嫌で変わっていないふりをするなんて最高にカッコ悪いです。
だから私は半沢直樹の新作、とても楽しみにしています。ドラマは一度も見たことがないのですが、それは「ロスジェネ~」以前の原作が好きじゃなかったからです。「ロスジェネ~」はずっと心に残っている作品なので、可能な限りドラマも追い掛けていきたいですね。