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まさに最高のリーダー

書評行きます!

「李登輝秘録」 産経新聞出版 2020年出版 河崎眞澄著 320P

(以下、読書メーターに書いたレビュー)

この人がいなかったら台湾も今の香港みたいになっていたかも。建前と本音を使い分けつつ既成事実を積み重ね、穏便なやり方でさりげなく大陸の色を削ぐ。中国のやり方を批判する裏では話し合いのできるチャンネルと機密情報の確保を怠らない。中国が民主化したら統一の話をしましょうのロジックや国連がダメなら国際機関を突破口にという発想も秀逸。国のトップとして史上最高のひとりだと思う。本省人である彼を抜擢し、野党の立ち上げを命じて民主化の礎を築いた蒋経国の功績も覚えておく。公のために清濁併せ呑める気概が日本の政治家にも欲しい。

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小林よしのりの「新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 台湾論」が好きで何度も読み返しています。李登輝さんの先見性と現実主義に裏打ちされた政治的駆け引き、なにより迅速な行動を伴う太陽みたいに力強いリーダーシップが本当に素晴らしいのです。香港が採用した「一国二制度」の欺瞞を見抜いてはっきり拒否していましたし、APEC(アジア太平洋経済協力会議)に国ではなく独立した関税地域として加盟申請をしたやり方も冴えています。「中華台北」という名称を使うことで中国との軋轢を避けつつ、国際機関に中国の一部ではない台湾として名を連ねる。こうやって少しずつ「台湾は中国とは別物」という既成事実を積み重ねていくのです。あと台湾の民主化にとって障壁となる政敵を力ずくで排除するのではなく、昇進させることで軍から離して影響力を削ぐというやり方も斬新でした。

他にも99年に起きた大地震への対応が印象深いです。午前2時前に発生したのですが、なんと早朝から軍の参謀総長を連れて現地で陣頭指揮を始めていたとか。災害救助には軍の持つ「戦場整理」力が不可欠という認識を普段から持っていればこそ。先ほど紹介した「台湾論」によると、災害から二日目には市町村長に「これでやりたいことをやりなさい」「人を救う。物を買う。いろんな救済をやりなさい」と緊急用に用意していた200万元(800万円)を渡したとか。すごくないですか? ここまでフットワークが軽く、なおかつリアルタイムのニーズに沿った実効性の高い策を即打ち出せるリーダーが日本にいるでしょうか? ただただ敬服です。

京大で農業経済学を学んだ李登輝さんは親日家としても知られています。いわゆる「自虐史観」による歴史の分断を憂い、日本の統治が台湾にもたらしたものをフェアに評価し、「私」よりも「公」を重んじる日本精神の良さを折に触れて強調してくれました。亡くなられたと聞いた時は本当に驚きましたし残念でした。謹んでご冥福をお祈りいたします。


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