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推しが燃えた。私も燃えたい(読書記録9)


■前置き

タイトルはけっしてネット上で炎上したいという意味ではなく。それくらいの影響力をもてる存在になりたいということで。

プロフィールにはエンタメ中心って書いてるくせに、読書記録は純文学ばっかりじゃないか、と思った方。
申し訳ありません。おっしゃるとおりで。しかも気づけば大半が女性作家という。純文学での近年の女性の活躍ぶりがうかがわれますね。

純文学を中心に読んでいるのは、私自身の頭をエンタメではなく、純文学にシフトしたいという思いがありまして。

というのも、今年は挑戦します。3月〆切の5大文芸誌の公募。そのため、純文学に少しでも自分の思考と文章が近づくように調整をしているので、読むのが必然的に純文学になってしまっているのです。

まだ半分くらいしか書けておらず焦っております(笑)
書きあがりましたら、通常通りエンタメ中心に戻しますので、ご了承を。

■登場人物

〇あかり 推しを推しに推す女子高生。家族との仲はあまり良好ではない。勉強も得意ではなく、生きがいは推しを推すことだけ。推しと近づきたいとかそういう欲求はなく、ただひたすら推しているだけで満足できる。ネット上では「ガチ勢」として知られており、ブログでの知名度もある。
〇成美 あかりとは推し仲間だが、アイドルの推し方はあかりと異なり、アイドルに積極的に近づくため、現在では地下アイドルを推している。
〇上野真幸 推し。子役からデビューし、アイドル「まざま座」の一員として活動している。グループ内でも人気が高かったが、ファンを殴ってしまったことで批判が殺到することになる。
〇母親・父親・姉 あかりの現在の姿を受け入れられない。推しに生活のすべてを費やして傾倒していることをよく思っていない。

■ストーリー

あかりはアイドルグループ「まざま座」の上野真幸にバイト代のほとんどをつぎ込み、熱心に推しているが、その真幸がファンを殴ったことで批判に晒されることになる。
それでもあかりは変わらず推し続けるが、あかりの精神状態・健康状態は悪化し、家族との間の亀裂も広がる。やがて進級できないことが決まると高校を中退し、生活のすべてを推しに捧げるようになる。
そんな中で推しの口から衝撃の告知をされ、あかりは進むべき針路を見失いかけるが……。

■印象的だった文章

  • 推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。

  • メッセージの通知が、待ち受けにした推しの目許を犯罪者のように覆った。

  • 垢や日焼け止めなどではなく、もっと抽象的な、肉、のようなものが水に溶け出している。

  • 同じものを抱える誰かの人影が、彼の小さな体を介して立ちのぼる。

  • 体操着は見つからなかったけど強固な芯が体のなかを一本つらぬいていて、なんとかなる、と思う。

  • 蝉が耳にでも入ったように騒がしかった。夥しい数の卵を産み付け、重い頭の中で羽化したように鳴き始める。

  • 何かしらの苦行、みたいに自分自身が背骨に集約されていく。余計なものが削ぎ落されて、背骨だけに、なってく。

  • 大袋のなかに入った個包装のチョコを食べていって、いま食べたそれが最後の一個だったよ、と言われるみたいに、死が知らされる。

  • 守ってあげたくなる、切なくなるような「かわいい」は最強で、推しがこれから何をしてどうなっても消えることはないだろうと思う。

  • 推しを取り込むことは自分を呼び覚ますことだ。

  • 初めから壊してやろうと、散らかしてやろうとしたんじゃない。生きていたら、老廃物のように溜まっていった。生きていたら、あたしの家が壊れていった。

~宇佐見りん著、「推し、燃ゆ」より抜粋~

■感想

私は推すより推されたい、です。
夢中になって推せるものがあることも羨ましいと思います。

人間って、自分の体と同じ大きさの器をもっていて、その中に色々なものを注ぎ込むのだと思います。生活、仕事、趣味、友達、家族、恋人……、それらの比重はひとそれぞれです。

あかりはその器ほぼすべてに推しを注ぎ込んだ。というよりも、注ぎ込めるものがなく、空虚だった器に注ぎ込むことができたのが、推しだけだったというべきでしょうか。

推せる人は、器の比重を自分よりも推しに傾けることができる人。
推されたい人はその逆です。

あかりはそれが極端だった。

彼女の育った環境や、彼女が抱えていた発達や精神的な問題も、推しへ傾倒させる後押しとなったでしょう。

あかりの推しへの姿勢は、無私の奉公にも似たものです。相手をあるがままに受け入れ、絶対に否定しない。
私はそれは、あかりが家族に求めてもしてもらえなかったことだと思います。母親は姉と違い勉強ができるようにならないあかりに苛立ち、彼女をあるがままに受け入れようとはしなかった。
あかりは自分が推しにするように、家族にも肯定してほしかったのではないかなと思います。

家族の何気ない言葉って、子どもの生育に影響を与えるものだと思います。
言った親は忘れているのでしょうけれど。

私は兄と比較されて、兄とは違って地力がないから努力しなくちゃだめだ、というようなことを言われました。その日から、努力することをやめました。形では勉強している風を装い、適当な答えを回答欄に入れながら別のことばかり考えていました。

努力せずに兄よりいい学校に行ければいい、と間違った形に私の意識は歪んでしまったわけです。

今でも一つのことに努力することは続かず、何事も中途半端で伸び切らない。それが私です。

子どもたちには、私と同じような歪みを味わわせたくないと思いますが、自分の言葉の何がどう作用するか分からないのが、子育ての難しいところです……。

ちなみに私の器は今こんな感じです。
〇家族30 〇生活30 小説30 仕事10

かなり自分の割合が大きいですね。
小説は趣味の域を出ないので、ここが「推される」ものになると仕事の割合が変わってくるかもしれませんが。燃えるほど推される存在に、なりたいものです。

みなさんの器の中は、いまどうなっていますか?
推しに傾いている方は、幸せかもしれませんが、自分のことも見つめ直して、大事にしてあげてくださいね。
器に空白があるな、と感じて空虚な思いを抱えて過ごしている方。何か「推し」でその空白を埋めると、あなたの日々が輝き出すかもしれません。ただ、あかりほど無私にならないよう、気を付けてくださいね。

昔、「焼肉焼いても家焼くな」というフレーズのCMがありましたが、たとえ推しが燃えたとしても、あなたまで燃えないでくださいね。推しは推し。あなたはあなた、なのですから。

それでは、次の読書記録でお会いしましょう。
推し燃ゆる、その紅いほむらを眺めつつ。

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