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Nをnoteに(読書記録20)


■N

今回の読書記録は道尾秀介著:「N」。
サムネイル画像は幾つかキーワードを入れて生成AIにお任せです。青い蝶などはキーワードに合致しますが、”N”は無視されたようです。
こちらの作品は全六章で成っていて、それぞれ章のタイトルは下記のとおりです。
①    名のない毒液と花
②    落ちない魔球と鳥
③    笑わない少女の死
④    飛べない雄蜂の嘘
⑤    消えない硝子の星
⑥    眠らない刑事と犬

便宜上①~⑥まで番号を振りましたが、読む順番は自由なので、どれが一章か、などは決まっていません。読む人によって、選択したものが一章になり、六章までになり。物語を自由に組み立てていけます。

ちなみに私は、③→⑥→①→④→②→⑤の順に読みました。参考までに。

■選べない読者の本

さあ、自由に選べ! と言われると途端に選べなくなってしまう方、いませんか? レストランでメニューを広げてさあ選ぼうと考えると、あれもいい、これもいいと目移りばかりして、一向に決まらない。

はい、私がそうです。
というより、小説に関しては、普段から物語の構成だなんだと自分で頭を捻りすぎて一回転するほど考えているのだから、読書ぐらい人の書いたものをそのまま味わいたい、と思ってしまうのです。料理をする方が、他人の作ったご飯が食べたい、と思うのと同じような感じ、でしょうか。

その点でこの『N』という作品は美味しそうなんだけれども、目移りして箸を出せない、そんな誘惑に捕えられてしまう作品ではないかと思います。

■今日の主役は明日の脇役

『N』の最大の特徴は、ある章で主役だった人間が脇役に転じている、あるいはその逆。というところにあると思います。たとえば「落ちない魔球と鳥」で主役だった高校生が、「眠らない刑事と犬」では背景のような、脇役の一人として登場したり。

この作品の面白いところは、読む順番が逆になると、読者の中の認識も逆になるところです。つまり、脇役として登場した人物が、急に別の章で主人公ないしは中心的な登場人物になっている。
そこには登場人物の立場の逆転だけでなく、登場人物に付随して起きる事実の逆転も起こっているのです。

この登場人物の立場と、事件や人間関係などの事実の入れ替わりを、自分独自に組み立てて楽しむのが、この『N』の楽しみ方の醍醐味ではないでしょうか。

■感想として

自由に物語を組み立てる、と申し上げましたが、物語を自由に作っている、という感覚は読んでもあまり抱かないのかな、と思います。それぞれの章で起こる出来事が変わるわけではなく、読む順番の変化によってもたらされるのは、読者側の認識の変化でしかありません。

たとえば、ある章でAという事実があって、別の章でそれを他の視点から見たBという側面を見ることになる。あるいはその逆ですね。Bというある章では些末な事実が、別の章ではAという主要な事実として語られている、ような。

一つ一つの章はよくできていると思いますし、単独でも読むに値するものだと思います。そこにエッセンスとして物語の組み換えというものが付随している、ぐらいの認識で読むとちょうどいいのかなと。

私は読む順番によってもっとがらりと内容が変わるのかな、という認識でいたので、期待していたものとは違うものでしたが、楽しんで読めました。

道尾秀介さんというと、冴えないけどいいやつな男が、突然怪しげな美女と出会って彼女に振り回されて事件に巻き込まれていく、という展開の作品が多くて、私も好きなのですが、今回の『N』はそうした要素はなくて、どちらかというとシリアスな話が多いです。

今回の作品ではペット探偵の江添がいいですね。生い立ちからアウトローな感じまで。けれどどこか冴えない(笑)

最初に各章の出だしだけ載っているので、それを読んで直感で好みだ! という章に飛んでいいと思います。どの章から読んでも、別の章で新たな発見があり、また元の章に戻って確認してみたり。

この作品は自分で順番を決めていく、という性質から、積み木のような小説だなと思います。パズルだとピースをはめる順番は自由だけど、出来上がる絵は決まっています。でも積み木は、積む順番も自由なら、出来上がるものも違う。だから私は、この小説を積み木のようだと感じたのかもしれません。

気になる方はぜひご一読を。

〈了〉


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