うつつゆめの書庫~ある一日の断片~
ようこそ、当書庫へ。
そちらの来館者の方へのご案内は読んでいただけましたか。……よろしい。
それでは来館者台帳へ署名をお願いします。
ふむ。勝手知ったるという惑いのなさ。当書庫の常連様でいらっしゃいますか? いや失礼。詮索するのはルール違反というもの。初見の方も常連の方も平等に扱うのが当書庫の掟。
はい、ありがとうございます。記入いただいたので、ご自由に閲覧していただいて構いませんよ。
え? 私の後ろの本棚ですか。いや、こちらは私が個人で収集している書庫外の、一般世界の本でして、残念ながら閲覧に供しているものではないのです。わざわざここで読まずとも、外の世界の書店に行けば手に入りますよ。
それでも興味がある。いやはや、仕方のないお人だ。ですがすべて解説していては、時間がいくらあっても足りません。それに当書庫に来たからには、書庫でだけ閲覧できる文書の数々をみていただきたいものです。簡単にご案内しましょう。
後ろの本棚には小説が約七百冊ございます。日本・海外の古典から最近の本に至るまで、ジャンルを問わず。小説ばかりなのは、勤務時間中に難しい本を読んで居眠りするような粗相があってはいけないと思いまして。娯楽を目的に集めております。
どんな本があるかと? そうですね、私は古典も好きですが、最近のものも好きです。読書記録の棚に記録が保管してありますので、そちらを見ていただければとは思いますが、ええと、例えばこんな一冊はどうですか。
『金色機械』(著:恒川光太郎)
主人公の遥香、敵役の熊悟朗のそれぞれの過去を中心に、そこへ凄腕同心の柴本厳信、鬼御殿の面々、熊悟朗と一緒に鬼御殿にやってきた少女紅葉の物語が絡み合い、冒頭の遥香と熊悟朗が対峙する場面に戻って来る。そして物語のそこここに顔を覗かせる、「金色様」と呼ばれる人外の謎の存在。
とまあ、このような物語で。今の解説でもお分かりでしょうが、時代小説です。ただ時代小説特有の難しい言い回しなどはなく、時代ものを読みなれない読者の方でも、すんなりと読めると思います。約470ページと分厚いですが、するすると物語が入ってきて、展開もめまぐるしいので、気づいたら読み終わっていた、ということになるかもしれません。
時代ものなのに、超常的な能力が出てきたり、急にSF的な要素が出てきたりするので、いろいろ時代ものを読んでいた私も面食らいましたが、私はすんなり受け入れられました。その辺甘受できない、という方には向いていないかもしれませんが。小説の中、すべてに意味があって、配置されているものなので、無駄な設定はありません。必要なものとして超常的な能力もSF的な設定も存在しておりますので、食わず嫌いされずに読んでみていただけるとよろしいかと。
恒川氏の文章は基本平易なものなので、初読者でも読みやすいのですが、小説には文学的なエッセンスを強く求める、という方には向きません。あくまでエンタメ作品なので、ストーリーやキャラクターを楽しんでいただければと思います。
とまあ、このように小説が収められていて、私は勤務時間中、皆さまの応対や執筆をしているとき以外、読書をして過ごしているわけです。その成果を読書記録として発表していきますので、読書記録のマガジンをお読みいただければ幸いです。
え? 『金色機械』が読みたい。いえいえ、それは外の世界に出てからのお楽しみにしていただければ。
当書庫にも様々なジャンルの小説がございます。それらをお手に取ってみてはいかがです?
閉館時間はありませんので、心ゆくまでごゆるりと、お楽しみくださいますよう。
〈了〉
■サイトマップは下リンクより
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