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【感想】6/20「夜への長い旅路」、これは家族の愛の物語。

6/20、超お久しぶりの観劇をした。

渋谷のBunkamura「夜への長い旅路」を観るために、ここ何日かを乗り切ってきた。
何だか久しぶりの生の舞台で、どんな感じだったっけ?と思ってしまう。

大竹しのぶさんの演技を生で観られる嬉しさに、心弾ませる。

そして案の定、とんでもないものを観てしまいましたので、私の感想を取り留めもなく書くことにしました。

この「夜への長い旅路」は、有名も有名というか、ある種古典なので、深い内容は沢山文献があるはず。
しかし、そういったことは一切触れずに、感じたことそのまんまの感想なので、解釈違うぞ!というところがあってもご了承ください…。

備忘録というか、新鮮なままの気持ちを残しておくがための、一人の観客の感想です。


▶0:開演までのアレコレ

久しぶりの外出、というと大袈裟だが、昨年からこういった趣味事で出掛けなくなっていたので超わくわく。

Bunkamura初めて!
なのに、ちょいと忙しくて下調べもせず……。

12:30からの長丁場。
舞台にありがちな絶妙な時間……、お腹は空いていないが、お昼を抜くのは絶対NG!
お腹鳴ったら恥ずかしいですからね。

東急百貨店本店が横(というか同じ建物?)にあったので、お昼はちょちょっと蕎麦を。江戸っ子だねぇ。

ちなみに、レストラン街からBunkamuraまでは迷わず行きやすかった。
ルートが確立されていて、案内の道標もある。不安な人はここで食べるが良しかも。

もちろん、Bunkamuraの中にもシャレオツなレストランがあります。
キーボードの生演奏が聞こえてきて優〜雅優雅。ギャラリーもあって心豊かになります。

さて、会場はオペラの箱のような形。
中二階、二階席には横から見られる場所も。

私は直前にNetflixで海外ドラマ「ルパン」を見ていたので、「あそこペレグリニの席だ〜」なんて言いながら、我々は二階席の正面へ着席。

これが見やすいのなんの。
特に舞台は、全体が見える席の素晴らしさったらない。

確かに俳優たちの顔を細かく見ることは出来ないので、ファンの方からしたら悔しいかもしれないが、舞台の世界観を楽しむならここしかない。

神の視点で全体を見渡せる、まさに神席!




▶1:前半 不穏な空気


ここから、がっつりネタバレです!



さて、席に着くと、舞台上にはカーテンのような大きな白い布。
そしてずっと聞こえる「ブオーン……」という不気味な音。(ドグラ・マグラ?)

開演すると、それが霧と霧笛であることが分かる。
この存在感のある霧の大きな布が非常に素晴らしい!
ふわふわ上下し回る布がまさに霧!

そして、俳優さんたちが口を開いた瞬間、誰もが驚いたはず。

長ゼリフも長ゼリフ!!
1人でこんなに話すのか!?

これは並大抵のもんではない、
と分かるほどの圧倒的セリフ回し。

言葉のセンスも独特で、演劇初心者さんからしたら、ついて行くのはかなりキツイんじゃないかと思う。
それくらい一気に演劇の世界へGO!

メアリー役の大竹しのぶさんは、第一声から「嗚呼、女優さんだ…」と思うくらいの存在感。
初めて生で観たが、もう虜。

ジェームス役の池田成志さん、私は今回2回目。
前は髑髏城の七人だったのでポップだったな〜。

しかしまぁ声がよく聞こえるのなんの。
この2人は、どんな囁き声でも聞き取れる発声で、こういう高い技術を目の当たりにすると「舞台って良いな〜〜!!!」とテンション上がりますね。

ちなみに、序盤も序盤にアクシデントが。
成志さんの葉巻が落ちたが、自然に笑いながらお芝居を進めてて「うふふ」となりました(気持ち悪い感想)。

そして、舞台奥から歩いてきたエドモンド役の杉野遥亮くん。
超スタイル良くて草。

二階席だから細かいところまで見えないのだけど、なんかめちゃめちゃハイウエスト。
コント「ハイウエスト」の片桐仁くらいあった気がする。でも、カッコイイ。

そして、初めての舞台とは思えないくらいしっかり演じていて、不安な要素を感じさせなかった。

しばらくしてジェイミー役の大倉忠義くん登場。
だらしない身体が好きという嗜好の私は、放蕩息子の大倉くんに期待大。
体つきがよろしい、遠くても感じる色気、サイコー!3150!

席近いヲタク死んだんちゃうか?

とまぁ、皆さんの印象を感じつつ、ストーリーはどんどん進んでいく。

開幕してしばらくすると、この家族、なにか大きな家族の問題を抱えているが、見て見ぬふりをしているな、と分かってしまう。

どの家族にもきっとあるだろう。
家族だからこそ言えない、家族のタブー。
そのタブーに近づきそうになっていく時の、あのなんとも言えない空気感が伝わってくる。

それくらい4人の距離感は絶妙なのだ。
稽古に稽古を重ねたのが伝わってきます。

そして、そのタブーは、どうやらメアリーにあるようだと私は感じ始める。

メアリーは、テレビで見るしのぶさんのような、上品でおっとりした話し方もするのだが、たまに凄く早口で迫ってくる。
それが非常に長い長いセリフの中で、不規則に変わっていく。

正直、「しのぶさんの演技は癖が強いな…。ちょっと飲み込みにくいというか、変な調子だな……。」と感じてしまう。

だが、その感覚は正しく、メアリーは精神が不安定なのだと次第に腑に落ちてくる。

どうしてメアリーは気を病んでしまったのだろう。
核心は分からないが、ジェームスもジェイミーもエドモンドも、彼女に対して怯えているよう。

メアリーは家族に対して「監視されている」「信用されていない」と何度も言っていたが、まさにそんな感じだった。

メアリーを見る3人の目は何か違う気配があった。

そしてメアリーは、告白をする。
彼女は、自分が外出中に不慮の事故で次男のユージンを死なせてしまったことを、ずっと抱え込んでいると。

しかし、この死は誰のせいか。
怒りの矛先は定まらない。

夫を追いかけて家を留守にしてしまった自分、家に帰らず巡業ばかりしていた夫、ユージンに麻疹をうつしたジェイミー。

錯乱するメアリーに、私は自然と涙が零れていた。
なぜなら、しのぶさんのお芝居が凄すぎたから。

複雑な気持ち、答えのないことで苦しめられる姿をまじまじと見せつけられた。
女優のパワー凄いです。

前半のラストシーン。
壮絶な告白が終わり、1人になったメアリー。

その目線の先。
あのカーテンのような霧が舞い上がり、その向こうに、いるはずのないユージンの姿が見えた時、ぶわぁっと鳥肌が立った。

恐ろしいシーンとも言えるのに、ちょっと美しいくらいだった。

休憩なんかしてられるかよ!と思うくらい引き込まれていた。
というか、休憩時間に休憩出来ていた気がしない……。

トイレに行って、帰ってくるまで、
「一体誰が悪いのか、何が悪いのか、何も悪くないのか、なんでこうなってしまったのか……」
と、見つかるはずもない''元凶''を探していた。

(ところで、女子トイレはいつも激混みですね……。皆さん階段に溢れてました。劇場はトイレ増やした方がいいのでは?)


▶2:後半 ぶつかる家族

後半は、それぞれの感情が語られて、それぞれの見せ場といった感じだ。

前半では、タブーを触れないようにする家族が描かれていたが、後半はお互いにぶつかっていく家族が描かれていた。

気を病んで薬に溺れるメアリー。
家族はある種、諦めの境地に入りだし、それぞれの思いの丈をぶつけ始める。

特に印象的なのが、ケチ過ぎるジェームスに怒れるエドモンドのシーン。

父のケチが故に、ヤブ医者からモルヒネを処方され、ヤク中になってしまった母。
さらには、エドモンド自身の結核の治療すら、安い療養所を選ぼうとする始末。

しかし、父のケチたる所以は、父が幼い頃、お金に苦労をした経験があったからだと聞かされる。

そこでエドモンドはあんなに酷い父を許すのだ。
この許しは「家族」を凝縮している気がする。

成志さんと杉野くんの掛け合いは、とても家族っぽかった。
今までの家族模様が見えるというか、描かれていない他愛ない生活の部分もきっとこうだったろうと思わされる。

成志パパが、家族を笑わせて楽しませて……そんな楽しい思い出があったろう、と感じるのだ。

次にやってくるのが、兄弟という家族の姿。

酔っ払いジェイミーが帰宅。
脳裏に大倉忠義のへべれけエピソードがよぎる……いかんいかん。

2人は喧嘩のような言い合い(殴る!)をするが、ここでも「家族」が見える。

エドモンドへの嫉妬心をぶちまけ、悪態をつきまくるが、「俺なんかに近づくな」と言うジェイミー。

彼にとってエドモンドは弟であり、親友でもある。
大切な存在だからこそ、こんなクズな自分から離れてほしいという気持ちが、愛だった。

憎しみと愛は紙一重って言いますね。
説得力がありました。

大倉くんの、冷たい態度の中で実は炎を燃やしている感じと、杉野くんの、スっと客観的に遠くから見据えている感じが、ばっちり合っていたと思う。

あと、全然関係ないのだけど、
ジェイミーがエドモンドに、「あの本やこの本も読めって俺が言ったんだよ」みたいなセリフがあって、近藤春菜と友近の掛け合いがよぎってしまった。
(アダムとイブ!そのリンゴ!)

そして、またしてもラストシーンでは、しのぶさんにやられました。

霧からメアリーが登場。
でも、その姿は明らかに今までのメアリーではない。

誰かが説明している訳でもないのに、
「あぁ、彼女は薬を打ち、自分のなりたい姿へと変貌したんだ」
と察することができる。
しのぶさん…スゴすぎる……。

そして、霧に包まれたメアリーが、そのカーテンのような霧を、ウェディングドレスとしてまとっているんだと気づいた時、またしても涙が止まらない。

私はかなり涙脆いのだけど、それは明確に「〇〇が悲しい」「これは可哀想」「それは辛い」などと頭で理解して泣いている。

しかし、今回は気がついたら涙がボロボロと零れる。
理由を頭で理解する前に、メアリーの姿に涙してしまった。

薬によって人間を超えた美しさ、いや、そういう人間らしさの美しさ?
一体何なのかあれは。

終演後、鼻水チーン状態。
隣に座っていた大倉くんファンの子がドン引きするくらい、鼻水かみました。

Bunkamuraから去る道中でも、あのメアリー=大竹しのぶの姿を思い出すだけで涙が込み上げてくる。
それくらいの迫力があった。

はぁ〜、素晴らしいものを観ました。




▶3:全体の感想

家族を、4人の人生を、覗き見してしまっている気分。
これこそエンタメの良いところだよね!

特に母親の描き方が素晴らしい。
ラストシーンでは、いわゆる母親像とも言える「子供のためになら何でもする」という母性が無くなる。

夫と子供の前で、彼ら家族の存在を忘れてしまうのだ。

妻でもなく、母親でもなく、ただ本物のメアリーという1人の人間として、あの輝かしい少女に戻った瞬間がとんでもなく心を震わせた。

もちろん、それぞれにバックグラウンドがあって、その気持ちの動きはリアルで丁寧だ。
キャラクターだけ見たら、私はジェイミーにめちゃくちゃ感情移入できる。

ただ、今回は個人的に、しのぶさんパワーによって母親に注目せざるを得なかった!

そして、呪われた家族なんて表現されていたが、誰も悪くないし誰もが悪いのだ。

運命なんだ、人生なんだと言ってしまえるけど、それで気持ちがおさまるものでもない、ふわふわとした気持ち。

後半で描かれたような、言い合える仲という家族。
憎しみもあって愛もあっての家族。

それでもラストシーンでは、母親を取り戻すことを「諦めよう」とする。

でも、きっとこの家族は母親を捨てない。
ずっと家族なんだろうと何故か確信してしまう。

これは、家族の、愛の物語だと思う。


そういえば、霧の浮き沈みはメアリーの浮き沈みを投影しているのかもしれない。

とにかくあの霧の演出は素晴らしかった!
ここ数年観た舞台装置で断トツでトップです。

霧の効果がよく分かる二階席で見られて良かった!まじで神席です!

▶まとめ

「夜への長い旅路」を観劇して、
強く感じたことをまとめると、

・大竹しのぶさんサイコー!誰もが虜になります。
・練り上げらた古典……良いに決まってる。やっぱり古い新しいに囚われずに観劇すべし。
・本当に良いものを観た時は、心の豊かさが違う。自然と涙し、心震えます。

久々の観劇、本当に良かった。

劇自体が良いのはもちろんだけど、この劇がキッカケで、好きや興味関心が増えていくことが観劇の醍醐味かもしれません。

早く演劇界が完全復活できる世の中になりますように。

🌈最後までお読みいただきありがとうございます

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