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ポンコツストーリー8 -「カプチーノ」の謎と魔宮の伝説-

唐突だが、私はコーヒーが好きだ。

中一の頃に、知り合いのお兄さんに豆から入れるコーヒーのおいしさを叩き込まれて以来、コーヒーなしでは生きていけない体になっている。
ちなみに、中学生時代の一番のお気に入りの豆は生意気にも「トアルコ・トラジャ」と中々渋いお子様である。
今では仕事中でも休みの日でも、常に手元にコーヒーがないと落ち着かないし、一日に最低1リットル以上飲むレベルのモカ中だ。
カフェインが体の一部になっているから、スタバなどの座り心地のよい椅子があるカフェに行けば、コーヒーを飲みながら速攻で寝落ちできるレベルの迷惑なモカ中でもある。

そんなわけで、今回はコーヒーにまつわるポンコツ話だ。


高校生になるとカフェに対する憧れが出てくる。
美味しいコーヒーを飲むというよりも、学校帰りにカフェで友達と無駄話をして時間をつぶすという事への憧れだ。
幸い、高校は都心に近い学生街にあり飲食店には事欠かない環境だ。
高校一年、バイトをしていない私には親からもらうわずかな小遣いしか持ち合わせていない。
せいぜいがドトールで、ジャーマンドックで腹を満たしつつ、友達と時間をつぶすためにコーヒーを飲む程度でも十分なぜいたくであった。

当時から映画を見るのが好きであったし、高校で仲良くなった友人も映画好きであったので、みんなで最近見た映画をおススメしあっていたりしたものだ。
高校に比較的近い飯田橋にあった、ギンレイホールというロードショーが終わった少し古い映画をほぼ週替わりで、二本立てで、しかも少しお安い料金で見られる映画館があり、週末はよくそこに通った。

なんとなく懐かしくなって調べてみたが、ギンレイホールはまだ同じスタンスで劇場を運営しているようだ。
次に帰国する時には立ち寄ってみたい。

その頃に見た映画でタイトルも内容も忘れてしまったのだが、田舎の高校生が題材の邦画の中にこんなシーンがあった。
みんなが集まる小さな町の喫茶店で、

「俺カプチーノ。ないの?じゃぁ、アメリカン」

なぜか、このシーンが心に刺さったのだ。
当時のドトールには確かカプチーノがなかった。
いや、あったのかもしれないがお金がないからジャーマンドックとセットで付いてくるコーヒーしか飲んでいなかっただけかもしれない。
いずれにしても、カプチーノという名前は知っていたものの、どんなものなのか知らなかったが、何となくおしゃれっぽい印象を持っていた。

高校時代にはいつも行動を共にする友人が二人いた。
その友人たちとは、映画だけでなく、原宿や渋谷、下北沢などでよく遊んでいた。
当時の原宿~渋谷界隈は古着屋などが多く、学校帰りに行くこともあったし休日もよく徘徊していた。
ある日、一軒のカフェを見つけた。
特に何か目立つ特徴があるカフェではないのだが、おしゃれ過ぎず、敷居も高くなく、お値段も高くなさそうという、貧乏高校生の嗅覚でそのカフェに入った。
当然、ドトールとはまったく違う雰囲気ではあったが、フレッシュで青臭い高校生をも受け入れてくれるような、そんな懐の深さを感じるカフェだ。
メニューを見ると、あった!

「カプチーノ」

カプチーノに憧れる我々3人は、迷うことなく「カプチーノ」を注文した。

数分後、「カプチーノ」が運ばれてくる。

白い泡で覆われたコーヒーが目の前に出された。
これまで、喫茶店ではブラックしか飲んだことがなかったので、なにか新鮮な、でもおしゃれな飲み物を目の前にして気分はすっかりパリジャンだった。
ドトールのコーヒーはマグカップであったが、ここのカフェはソーサーの上にコーヒーカップが乗っている。
とりあえず、思い思いにコーヒーを飲む。
うん、悪くない。
見ると、ソーサーの上にはスティック状のお菓子も乗っている。
おぉ、お菓子もついているなんておしゃれだしお得!
それじゃぁ、このお菓子も食べてみよう。

ガリッ!

ん?

かなり堅い。
我々は一生懸命かじる。
格好を付けたい年頃である。
店員に尋ねることもできずにいたが、友人の一人が小声で、

「これ、木の棒じゃね?」

そうか、おしゃれなカフェだから砂糖やミルクをかき混ぜるスプーンの代わりなのかもしれない。
とりあえず、砂糖は入れない派なのでフワフワの泡とコーヒーをかきまぜてみる。

うん、なんかコーヒーと泡がいい感じに混ざり合った。
スプーンで混ぜるより、味がまろやかになった気がする。

単純である。

でも、我々はなんとなく納得いかず、コーヒーを飲みながら時折その棒をかじってみたりする。
まるで犬である。
仮に、本当にかき混ぜるためのスプーン代わりに提供されているものだとしたら、食器をかじりまくる高校生は迷惑そのものであるし、なにより器物破損である。

それから数年後である。
我々が、その棒を

シナモン

だという事を知ったのは。

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