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KOBELCO CUP2023 U18完全優勝の軌跡

4年に一度のラグビーワールドカップフランス大会が開催される2023年。
まずます注目度が高くなる中、ラグビー界の裾野を広げようと始まったのが、合同チームによる高校生たちの全国大会「KOBELCO CUP」。
今年で19回目を迎えるこの大会は将来のジャパンを目指す全国の強豪校を中心に選抜される「U17」の部。
単独でチームを編成することができない部員不足の高校に所属する選手で構成される「U18」の部。
そして五輪種目としても注目が集まる「女子」の部。
合同チームの日本一を目指して、真夏の長野県菅平高原で熱い戦いが繰り広げられます。

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はじめに

コベルコカップで関東U18の監督を務めさせてもらいました。

予選リーグは
東北代表に 17-0 
北海道代表に 31-0

予選での2試合シャットアウトは関東選抜のみ

決勝(カップ)リーグは
九州代表に 22-19
東海代表に 12-5

6年ぶり4回目の優勝
それも予選から1つも負けずに
完全優勝することができました

技術的な面でもフィジカル面でも上回っていた各地区代表に対して、なぜ勝利することができたのか。

そしてどのようにチームをビルディングしてきたのか、個人的にも振り返りながらその優勝への軌跡を書き記したいと思います。

有料公開としていますが、全て無料で掲載してあります。
気持ちはそれくらいの熱量で書き記します。
もし読んでいて熱いなと、学びになったなと感じればぜひ購入して下さい。全て子供たちへの還元に使用させていただきます。

優勝への要因を5つにまとめてみました。

  1. セレクションポリシー

  2. スタッフ陣

  3. 選手起用

  4. チームビルディング

  5. 客観的な評価

以下それぞれに関して書き記していきます。

セレクションポリシーについて

まず今回のコベルコカップに向けては3月に開催された「関東合同選抜大会」で優勝と準優勝を果たした「神奈川県」そして「群馬県」の選手たちがセレクションの対象となりました。

関東合同選抜大会のnoteはこちら

共通していたのは互いに「東京都」「千葉県」と初戦から死闘を制したことと、スキルフルな相手に対して泥臭くタックルをし続けたことでした。

雨中の試合を制したその泥臭いディフェンス。圧倒的なまでの熱量。
この2チームをセレクションする際に決めるポリシーは2つに決まりました。

・「泥臭いディフェンス」タックルができる選手。
・「応援される人であること」コアバリューを体現。

例年どのようにセレクションをしているのかは不明ですが、今回はしっかりと選手をフラットでみたいのもあり、数回のセレクションを実施したことも大きいかなと思います。
また次の章で説明しますが、群馬県の選手に関しては板谷先生の存在が大きく影響していました。

そうして選出された22名。
途中で各学校での大会参加や練習等で怪我人が出てしまいましたが、補強で途中招集された選手たちはこのポリシーに準じていたためチームへの溶け込みも早かったかなと個人的には感じています。

セレクションポリシーはとても大切かなと思います。

「何を基準に評価し」「どのようなチームを構築し」「どのような未来を描くか」

この3つを明確にしておくといいかもしれませんね。


スタッフ陣について

神奈川県合同選抜から一緒にチームを作ってきた3人の先生がいます。
BKコーチとして小原先生そしてFWコーチの柳井先生、全体的なサポートの石川先生。
そして今回群馬県からはBKコーチとして板谷先生という布陣となりました。

適材適所という言葉がありますが、見事にそれがハマっていたそんな気がします。

まずチームを俯瞰的に見続けてくれチームの雰囲気、また戦術に関してもアイディアを豊富に出してくれる小原先生。
元々神奈川県の合同チーム時代から一緒にBKを作っていて私はバックスリー。小原先生はSOとCTBを経験されているので互いに自由に討論できるそんな関係性がありました。気になったらすぐに助言を頂けるそんな環境はチームにとっての絶対的な安心でした。感謝です。

FWをメインで担当したのが柳井先生。まだ若くエネルギッシュな先生でなにより勉強熱心でした。気になることがあればすぐに聞いてくれる彼は合同チームでありながら多くのサインプレーやモールのチャレンジ。スクラムのビルディングなど、今大会FWが優位性を保つことができた要因かと思います。
若いながらも臆することなく、自由に自分の能力を発揮できるそんな空間を作り出せてよかったと思います。素晴らしい活躍です。

群馬県からのBKコーチ板谷先生は、大学時代の同期です。これが本当に大きくまた夢のような時間でした。大学時代の4年間苦楽をともにしたチームメイトとこんどは互いに教員として指導者として子供たちをラグビーを通して教育ができる。決まった瞬間から、群馬県のセレクションメンバーの選考は板谷先生に任せていました。全幅の信頼。これに尽きます。
熱く生徒をひきつけるパッションは群馬県のみならず神奈川県の選手たちもひきつけ、大事な場面でスイッチを押してくれる存在でした。
彼が選出した生徒は本当に人間性も素晴らしく、まさに優勝する為のラストピースでした。
また円陣も新しいものを作ろうとアイディアを出してくれ、生徒たちと考えたスイッチの入る円陣もできました。

選手起用について

今回の大会では特に「育成」と「普及」のバランスに悩まされました。
全員に同じプレータイムをあげたいという想いも当然あるし、一方で子供たちが本気で勝ちたいと、優勝したいと思っているのならば、勝負をしなければならない。
互いに県だけの代表ではなく、関東地方すべての合同チームそして生徒の代表という立場。起用についてインパクトメンバー(スタート以外のメンバー)には明確な役割を提示しました。
スタートのメンバーが全員100%を出しても勝てるかわからない。
もし100%出せないときにはインパクトメンバーが100%を出してピッチに出る。そしてそこには1人1人100%を出すタイミングがある。

選手は理由なく自分が出場できないとなってしまえばモチベーションも下がり続けます。明確な理由と、そしてなんの為にプレーをするのかという理由を伝えるべきと今回の大会でより学ぶことができました。

予選では全選手に10分以上はプレータイムを与えることができました。
逃げずに向き合えば、チームパワーを落とさずに勝利できる。
起用には監督の強い意志も必要と感じます。

タイプの違うスクラムハーフの話

優勝した要因の1つに2人のスクラムハーフがいます。
1人目は神奈川県から選出された佐々木君
2人目は群馬県から選出された依田君

どちらも実力は申し分なく、本来なら同じプレータイムをあげるべき選手です。
しかし私は全試合後半5分(残り10分)から依田君を投入するプランでいきました。
おそらく見ていた方からすると依田君のタイミングが遅い。もしくはスタートでもいいじゃないかと思ったかたいるかもしれませんが、明確な意図がありました。

佐々木君はとにかくゲームメイクができるスクラムハーフで落ち着いてゲームを進め、またキッカーとしても優秀な選手です。
攻撃的か守備的かというと本当に真ん中にあるバランス型のスクラムハーフ。とにかく試合が壊れることはない絶対的な安心感です。

一方で依田君は超攻撃型でタックルもアグレッシブ。とにかくゲームに勢いを与えてくれる選手です。またラックサイドを攻めることも得意で狙っている選手。

となったときに依田君の100%が最大に発揮されるのが足が止まり始める後半5分だったのです。
チーム戦術でも依田君を投入したら一気にギアを上げる。もう一段上げる。と明確に決めていました。

佐々木君も依田君も私から明確にプランを伝えるとともに互いに自分の強みを理解しているので、スタメンになることが1番大切だ。レギュラーの方が上手い。など勘違いをせず、自分の役割を全うしてくれました。

そして九州戦でみせたキックチャージ。
あの時間帯に1番元気で100%の力を出してくれました。

ここではスクラムハーフを出しましたが、インパクトメンバー1人1人に明確な仕事があったのは事実です。

選手に明確な意図そして起用の理由を伝えること

とても大切かと思います。

チームビルディングについて

今回のチームはキャプテンを務めた鈴木志恩君をはじめとても人間性が高い子供たちばかりでした。だからこそ彼らには多くの指示は出さず、宿泊中の消灯時間なども設定しませんでした。彼らが自分で考え行動することができるそんな集団であってほしいとの願いです。そうゆうことで見えない信頼関係が構築していたのかもしれません。

特にチームビルディングしていくうえで意識的に取り組んだことは3つあります。
ビルディングをする中で特にハドルを組む回数を意図的に増やしたこと。
アイスブレイクなどラグビーのトレーニングメニュー以外の時間もしっかりと時間を作ったこと。
ネガティブなことは一切言わないこと。

この3つです。

ハドルの回数は選手たちの距離感を近づけるものとしての意味も大きく。
何かあればハドルを組む文化が生まれたことは選手たちにとっても無意識的に帰属意識を高めました。

また練習時や帯同中など同じ学校の人たち、同じグループで固まってしまえばせっかく選抜チームで集まった意味もなく、ラグビーの本質的な楽しみも得られない。だからこそ、アイスブレイクなどラグビーの技術的なトレーニングの前にしっかりとチームワークを育んだのも成功に結びついた要因の1つかと思います。

ネガティブなことは一切言わないのは私のコーチングの個人的な考え方です。
選抜に選ばれた1人1人には尖っている武器、強みがあります。
そんな彼らに例えばできないプレーや失敗したプレーに関してネガティブな発言をすれば、試合前に「できないプレー」「失敗したプレー」を上手く修正しようと考えることも多いかと思います。
そうすると、せっかくの自分の「強み」「武器」が隠れてしまい、また「自信」を持って楽しくプレーできなくなってしまうと考えているからです。

自分の選ばれた理由があり、それを100%ピッチで表現すること。
それが私が選手に対してしてあげられることかと思います。

そんなチームを作っていくことで私たちの関東U18は1つのチームになっていったのです。

もちろん私のこのコーチングポリシーを理解し、チームに落とし込んでくれたスタッフ陣には感謝しかありません。

客観的な評価の大切さ

大学ラグビーの監督やコーチとの出会い

そして今回の大会期間中多くのセレクターがありがたいことに関東U18に来て下さいました。
多くの大学の監督さんやコーチの方々が挨拶してくださり、今まで中々日の目を浴びることなかった選手たちが大学関係者の目に触れることも嬉しく思いました。

全員が大学でもラグビーを続けてほしいとは思いません。
しかし生涯ラグビーを好きでいてほしいし、まだ自分のラグビーの可能性を諦めていない子供たちが初めての経験をするということはとっても意義のあることでした。

そこで沢山の方々からチームの雰囲気と練習中の姿勢など褒めていただけました。自分たちがどのようにチーム作りをしているのかを外部に評価されることは自分自身へのフィードバックに繋がります。

主観で物事を判断することも大切ですが、客観視しながらチームを作っていく。
そして自分がどう考えるかではなく、自分以外の多くの人はどう考えるかという視点を持つことも大切だと感じます。

谷崎重幸監督とのやりとり

多くの先生方やコーチとの出会いの中、現在新潟食料農業大学ラグビー部監督を務めている。谷崎重幸監督と人生で初めてお会いすることができた。
谷崎先生といえば東福岡高校など高校ラグビー界のレジェンドである。

志摩高校、法政大学を経て、1982年に東福岡高校のラグビー部監督に就任。東福岡高校の監督として、花園4度の優勝に導いた。2009年度と2010年度には、選抜・国体・花園の3冠を達成した。

Wikipediaより

そんな谷崎先生との初対面で私はチームビルディングを褒めていただけました。

先生方の声が本当に見ていて気持ちがいい!声で勝ったね!素晴らしい選手へのアプローチなど、選手たちにこの舞台を楽しんでほしい。
ラグビーの本質の楽しさを味わってほしいという根底の想いに共感していただけたこと。

私の教員人生やコーチング人生であそこまで褒めてくださることは今までなく、今もなおその時のことを思い出してしまう。素直に自信になりました。

谷崎先生も選手の自主性を大切にされる監督であることは高校ラグビーを知っている方は多いはず。

その姿が初戦から見ていただけたと思う。

このような出会いをするとは思わなかったが、お会いしてこのようなことを言われたことはとても自身がついた。

優勝後にピッチからスタンドにいる谷崎先生と目が合い、互いにガッツポーズできたことは私自身がただの高校ラグビーファンに戻った瞬間だった。

これからも客観的に評価する視点も大切にしながらコーチングをしていきたい。


おわりに

コベルコカップは関東合同選抜大会から率いた神奈川県選抜、そしてそこから出会った群馬県選抜と合同で集まった回数は少ないが、長い長い物語となった。
関東合同選抜大会の結果でこのようなドリームチームが生まれ、恐らく二度と私は指揮を執ることはないと思います。

しかし素晴らしい大会であり、ぜひ今後も合同チームで青春する全ての高校生そして奮闘する先生方にぜひこの舞台に立ってほしいなと思います。

最後に彼らはここがゴールではありません。

これから最後の菅平合宿など、高校生ラガーマンとして最後の花園予選が控えています。
選出された1人1人は各高校でこの経験を還元し、自分の高校を背負い最後の高校ラグビーを楽しみます。
どうか彼らの最後の最後の青春まで応援してあげてください。

今回の大会における特別協賛のKOBELCOグループをはじめ、多くの方々のご支援と協賛で成り立つコベルコカップ。
本当にありがとうございました。

3日間帯同して下さった。
コベルコ神戸スティーラーズの杉本選手にも感謝申し上げます。本当に楽しそうにチームにコミットしてくれて選手たちも楽しそうでした。

今後も自分自身のコーチングを磨き、1人の教師として1人のラグビーコーチとして子供たちやラグビー界に貢献できたらと思います。

これからもよろしくお願いします。


KOBELCO CUP 2023
ALL KANTO U18
HC 飯塚淳平 


菅平サニアパークでの胴上げ。幸せものです。


優勝したスタッフ陣 とにかく良い組織でした


試合詳細などはこちらのサイトから↓

鈴木キャプテンのインタビューなど&rugbyさんで記事があります↓

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