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むずかしい平凡 自句自解 第一章「むずかしい平凡」

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拙句集「むずかしい平凡」の自解を行っています。もしよければ俳句を楽しみつつ、お付き合いください。
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46 鎖をなして星潤むなり多喜二の忌

 句集「むずかしい平凡」自解その46。

 多喜二とはプロレタリア文学作家小林多喜二のこと。亡くなったのは1933年2月20日。

 貧しい家庭に生まれ、しかしその中でよく学び、優秀な成績で学校を卒業した。けれども、あまりにもひどい資本主義体制により、貧しい人たちが人間性を奪われて日々を暮らしているのを目の当たりにし、共産党に入党。非合法活動をしながら、社会を告発する作品を書き、当然、特高警察に追

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32 いい本の手ざわりラ・フランスの重み

32 いい本の手ざわりラ・フランスの重み

 句集「むずかしい平凡」自解その32。

 本屋でふっと感じた印象。

 あ、この本の手触りっていいな。どことなく重みがしっかりあり、重心が感じられる一冊の本。内容もあって、しかも甘みもある。

 その感触が、果物の味わいに似ていた。この感触って、なんか記憶があるような。そして思いあったのがラ・フランス。これだなと。

 今はスマホでいろいろなことが事足りているような時代だけど、ぜひ紙の本も手に取

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14 夫婦喧嘩につつーっと降りて蜘蛛光りぬ

14 夫婦喧嘩につつーっと降りて蜘蛛光りぬ

 句集「むずかしい平凡」自解その14。

 この句は人気ある句ですね。情景はこの句のまんま。

 夫婦喧嘩がだんだん熱くなってきた。たがいに自説を曲げない。相手のちょっとした言葉尻をとらえて責め立てる。過去の間違いも引き合いに出して、だからあんたは、だからおまえは、と果てるところがない。

 そんなとき、天井からつつーっと蜘蛛が降りてくる。夫婦喧嘩の間に入って、蜘蛛がきらっと光る。べつに何を言い出

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11 麦秋や空が彼女の遺書でした

11 麦秋や空が彼女の遺書でした

 句集「むずかしい平凡」自解その11。

 麦秋とも、麦の秋とも言いますね。

 六月ごろに麦が実ってくると、枯れた茶色になってくる。季節は夏だけれど、なにか秋の色のような雰囲気。季語の面白さですね。

 麦秋のころの青空が、気持ちいいいような、そして少し物悲しいような、そんな印象で、いつも胸がかるく締め付けられるような感覚があります。

 「空が彼女の遺書でした」のフレーズを具体的には言いたくな

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