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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2023年1月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第256話

月の砂漠のかぐや姫 第256話

「王柔殿、しっかりっ。こっちに来てください、さぁっ」」
「羽磋殿、すみません・・・・・・。痛いっ、肩がっ」
 揺れが弱くなっていたので、羽磋が王柔の元に辿り着くのに多くの時間はかかりませんでした。王柔は大きくて深い窪みのすぐ近くに倒れていました。その窪みは「穴」とも「亀裂」とも言っていいような急な傾斜と深さを持つものでしたから、地面に転がされた王柔がそこに落ち込まなかったのは、不幸中の幸いとしか言

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月の砂漠のかぐや姫 第255話

月の砂漠のかぐや姫 第255話

「どこなの・・・・・。ここだよ、あたしはここだヨ。そうだ、お母さん、お母さん! あたしはここだよ。ねぇ、お母さん! 違う、オージュ。違う違う、お母さん、おかあさーん! オージュ、助けて! 怖いヨ、助けて!」
「理亜ぁっ、うわ、うわわわっ。理亜っ。大丈夫か!」
 とうとう、理亜の声は王柔ではなく何者かに向けられたものに変わってしまいました。でも、その言葉の中には、王柔に向けられた言葉もまだ残っていま

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月の砂漠のかぐや姫 第254話

月の砂漠のかぐや姫 第254話

「う、うわわっ」
「危ない、王柔殿っ、大丈夫ですかっ」
 窪みの縁を走り抜けようとした時に地面が大きく揺れたのですからたまりません。体勢を崩してしまった王柔がフラフラと二、三歩前に進んだところを、急停止した羽磋が両手で抱きかかえるようにして受け止めました。地面にある窪みにも大小がありますし、そこに落ちたら二度と上がってくることはできないというほど急激に落ち込んでいるわけではありませんが、勢いよく転

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