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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2022年8月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第239話

月の砂漠のかぐや姫 第239話

 それにしても、「おかあさん」と理亜が言ったように、王柔には聞こえました。それは、「お母さん」でしょうか。理亜の母親は、異国で理亜と一緒に奴隷として月の民の者に買われ、その後この月の民の国へ送られてくる間に死んでしまったのだと、王柔は理亜に聞かされていました。ただ、母親が亡くなったのは理亜がとても小さい時だったために、彼女はあまり母親との記憶を持っていないのだとも、王柔は聞いていました。その為なの

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月の砂漠のかぐや姫 第238話

月の砂漠のかぐや姫 第238話

 ただ、ある問題が彼らを悩まし始めていました。
 それは、空腹でした。わずかに残っていた食料を前日の夜に食べ尽くしてしまってから、彼らが口にしていたのは水だけでした。光の筋の発見と言う明るい出来事に励まされて足を前へ進め続けたものの、やはり時間が経てば経つほど、前へ進めば進むほど、身体が食べ物を強く要求するようになるのでした。
 かといって、空腹を凌ぐために水をたくさん飲むわけにもいきません。彼ら

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月の砂漠のかぐや姫 第237話

月の砂漠のかぐや姫 第237話

 今にも理亜と手を取り合って踊り出しそうな王柔の横で、羽磋は改めて洞窟の上部から差し込んでいる光の筋を見つめました。その筋に沿って視線を上げていくと、薄暗い天井の所々にほんのわずかな大きさの亀裂があって、そこから光が差し込んでいることがわかりました。もちろん、岩や土の襞に隠れている箇所もありますから全ての亀裂の大きさがわかるわけではありませんが、光の筋の大きさから考えると、それらの大きさは自分のこ

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