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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2020年9月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第127話

月の砂漠のかぐや姫 第127話

「精霊の子を訪ねよう。理亜のことについて何か教えてもらえないかと頼もう」と、再び自分が行おうとしていることを確認した後は、もう王柔が迷うことはなくなりました。それは、彼が自分で自分自身の力で、「恥ずかしさ」や「失敗することへの不安」を振り払った、最初の経験になったのでした。

「それで、王柔。どうだったんだ、結果は。何かいい話でも教えてくれたのか、精霊の子は」
 始めは王柔の話を黙って聞いていたも

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月の砂漠のかぐや姫 第126話

月の砂漠のかぐや姫 第126話

「精霊の子に話をしたって、何にもならないんじゃないかな。だったら、最初からやめておいた方が良いかもしれないよ」
 王柔の心に、どこからか囁きかける声が、響いてきました。
 それは、いままでもずっと、彼に囁きかけてきていたのですが、これまでは彼の「僕ができることをするんだ」という意識が強すぎて、彼の心の奥底にまでは届いていなかったのでした。でも、村の静かな区域を一歩一歩進むにつれて、あれほど強かった

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月の砂漠のかぐや姫 第125話

月の砂漠のかぐや姫 第125話

 それでも、何とか理亜の身体を元に戻してやりたいと、知恵のある者を探し求めて村中を走り回った王柔と王花でしたが、その手掛かりを得ることはできないままでした。
 酒場の奥の小部屋での話し合いの際に冒頓の言葉を受けて、自分のできることについてもう一度深く考え直した王柔は、王花と自分が「知恵のある者」にばかり考えが行っていたのではないかと、思いついたのでした。視点を変えて、「精霊に近い存在」という方向か

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月の砂漠のかぐや姫 第124話

月の砂漠のかぐや姫 第124話

 そんな冒頓の目にとまったのは、理亜の姿でした。彼女は、冒頓の向かい側で、王柔の隣に座っていました。立てた膝を両手で抱きかかえると、そこに顔をうずめて、すっかりと大人しくなっています。
 やはり、年端のいかない子供に、怪奇としか言いようのない岩でできたサバクオオカミの姿、そして、それに続く激しい戦いの様子は、強い衝撃となったのでしょうか。
 そう考えると、急におとなしくなってしまった事はわからなく

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月の砂漠のかぐや姫 第123話

月の砂漠のかぐや姫 第123話

「さあて、どうすっかなぁ」
 冒頓は、誰に聞かせるでもない言葉を、頭の上に向って放り投げました。
 襲ってきたサバクオオカミの奇岩の群は全滅させました。部隊の士気は上がっていますから、この勢いを駆って、ヤルダンに突入すべきでしょうか。
 冒頓は、自分のあげた声が浸透していった青空を見上げました。目に染みるようだった青さは薄れ、オアシスの周りでときおりみられる青綿の木の花びらのような、柔らかな色合い

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月の砂漠のかぐや姫 第122話

月の砂漠のかぐや姫 第122話

 この戦いの様子を一番よく把握できていたのは誰かというと、実は冒頓ではなくて、羽磋と苑でした。
 彼等は、奇岩の群へ突撃する冒頓たちとは、行動を共にしていなかったのでした。苑には、離れた場所で全体を監視して、万が一にでも新手が押し寄せてくるようなことがあれば、銅鑼を鳴らして冒頓に伝えるという役目が与えられていました。
 また、羽磋はといえば、護衛隊と一緒に戦いをした経験は持っていませんでしたし、そ

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月の砂漠のかぐや姫 第121話

月の砂漠のかぐや姫 第121話

 川が二手に分かれるように滑らかに分かれて左右の護衛隊に襲い掛かってきたサバクオオカミの奇岩たちでしたが、その赤土色をした牙に温かな肉の感触を得ることは、どうしてもできませんでした。
 自分たちに矢を射かけてきた護衛隊に、もう少しで飛び掛かることができるところまでは接近したのですが、その相手は急に馬首を返して逃げ始めたのです。如何に足が速い彼等でも、不意を突いて襲うことができればともかく、走りだし

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