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1杯のコーヒーのような、看護。

今回の退院時カンファレンスは2時間に及んだ。

私はカンファレンスの後、病室で待つYさんにご挨拶をし
「それでは、次はご自宅でお会いしましょうね。今日はありがとうございました。」と病室を後にした。

病院玄関を出た頃には、すっかり日が落ちていた。

自宅退院をされ訪問看護を希望される方の支援として、入院中に病院に伺い、退院に向けてのカンファレンスを行うことがある。
病院の主治医・病棟看護師・理学療法士・ケースワーカー、ケアマネジャー、訪問看護ステーションスタッフ、訪問診療の医師・看護師、ご家族を交えての話し合いの場だ。時にはご本人も参加いただく事もある。

Yさんは、医療処置や状態悪化時の救命処置は希望されておらず、
「自然に逝きたい」というご希望があった。

カンファレンスでは主治医から現在の状態・入院中の経過や今後起こりうる状況の説明があり、私達は退院後の介護状況の確認や、サポート体制、環境調整等について話し合った。

私は最後に、これからのことを含め急変時など、ご家族の考えをお聞きした。

ご家族はいろいろな想いの中で揺れておられた。
それでも、Yさんの娘さんは時には瞳を少し潤ませながら、病気がわかってから今までの経過や出来事、想いや考え、退院にあたっての決心を話してくださった。

*〜*〜*〜*〜*〜

相方(職場の同僚)と2人、薄暗い駅までの帰り道。
私たちは、頭の中で先程のカンファレンスの事が色々巡っていた。
軽い疲労感もあり、お互いあえてカンファレンスの話は避けながら、ぽつりぽつりと他愛のない話をしながら歩いた。

お茶でも飲んでいこうということになり、私がコーヒー好きということで珈琲専門店に立ち寄った。

*〜*〜*〜*〜

10種類以上の珈琲豆が並べられている。どうしよう・・・。決められない。
私は銀髪の店員さんに聞いてみた。

『酸味が少なくてビターな感じがいいんですが、どれがいいですか?』

(では、こちらの〇〇か、こちらの◎◎はいかがでしょうか。こちらは香ばしく、こちらは・・・。)と銀髪の店員さん。

『〇〇でお願いします。』

(抽出はどうなさいますか?△△と▲▲があります。)

『〇〇にはどれがいいですか?』

(▲▲は抽出方法がこのようになっていて・・。この豆には▲▲がいいと思いますよ。)

『では、それでお願いします。』

しばらくの後、私達のもとへ、先ほどの銀髪の彼がコーヒーを運んできてくれた。
見た目も素敵だ。。

「いただきま~す」

「・・・・・・・」

「ふう~  おいしい。」と私。
「はあ~ ~ おいしい。」と相方。

そう、私は、
今日、こんなコーヒーが飲みたかった。
コーヒーって、こんなに美味しかったんだ。
そして、とても穏やかな気持ちになれた。
たかが1杯のコーヒー。
されど恐るべし。これこそ、プロが入れたコーヒーだ。
また、是非このお店に来て、彼が入れたコーヒーを飲みたいと思った。

相方は、
「今日は色々あって、忙しかったけど、とても良い1日でしたよ。」
と今日の出来事や先程のカンファレンスでの想いを話してくれた。

店を出てから、私たちは温かい穏やかな気持ちで、先ほどより暗くなった駅までの道を歩いた。

*〜*〜*〜*〜*〜

訪問看護はご利用いただくにあたり、利用者さんから、
「望む生活は何か、どう生きたいか」
人生のオーダーをお聞きする。

利用者さんやそのご家族は、迷ったり不安だったり、「これでいいのか」と気持ちが揺れていることが多い。
そして、私たちは利用者さんとご家族の要望を考慮しながら、プロとしての意見や方法を提案する。
同意がいただけたら、プロとしての倫理観・判断力・知識・技術・経験を駆使し、ご自宅に伺い訪問看護を提供する。
途中、状態や状況に応じてオーダー変更は勿論ありだ。

あの珈琲専門店でのやり取りと変わらない。

利用者さんには
こういう生活がしたかった。
看護師さんに来てもらうって、いいね。
とても楽になったよ。
また、看護師さんに来てもらいたい。
そして、
「病気はしたけれど、よい人生だった。」

と思っていただけるような、
あの1杯のコーヒーのような、看護。
目指したいと思う。

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