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挑戦との向き合い方【朝日湯源泉 ゆいる@浜川崎駅】

 新しいことを始める人に対する態度は大きく三通りに分かれる。一つ目は「参加・応援する」、二つ目は「静観する」、そして三つ目は「拒絶・批判する」である。僕自身でいうと、それが自分にとって不利益になる可能性がある場合は三つ目を選択することがあるけれど、そうでなければ基本的には一つ目を選択をしている。ちなみに、自分とはあまりにも無関係な事柄であったり、状況が飲み込めていなかったりする場合は二つ目を選択する。

 ただ、世の中には、誰かが新しいことを始める時に、自分が特に不利益を被っていないにも関わらず、拒絶をしたり批判的になったりする人がいる。何に対してそこまで怒りを感じ、何のために相手にその怒りをぶつけているのかはよくわからないのだけれど、もしかしたら自分の中の正義を振りかざすことによって自身の存在価値を証明したいのか、日頃のストレスを発散したいのかもしれない。
 自分の価値観に合わないことを見たり聞いたりした場合、それが自分に直接関係の無いことなのであれば、静観するのがお互いのためではないかと思う。そこで相手のためを思って意見をしたとしても、それはただのエゴであって、実は自分のことばかり考えていることのほうが多いのである。社会的に必要とされないものなのであれば自然に淘汰されるし、わざわざそれに対して意見をする必要は無い。

 繰り返すが、僕自身は新しいことを始める人に対して基本的にはポジティブな気持ちを抱いている。おそらく、きっと僕自身も新しいことを始める時に応援されたいのだと思う。自分がされて嬉しいことは、なるべく他の人にもしていきたい。

 そんな僕のもとにあるビッグニュースが飛び込んできた。この社会情勢下において、神奈川県川崎市に新たな温浴施設「朝日湯源泉 ゆいる」がオープンするそうだ。ただ、厳密にはオープンではなくリニューアルと呼んだほうが正しいのかもしれない。ゆいるはもともと「朝日湯」という名の銭湯だったそうだが、このたびスーパー銭湯として姿を変えてオープンすることになったのだ。

 それにあたり、ゆいるでは正式オープンの前に三日間(3月8〜10日)、プレオープン期間が設けられることとなった。この期間に行かない手はないと考えたのだが、僕のヨミでは初日と二日目でABテストを行い、そこで得られた知見をもとに三日目でオペレーションやセッティングなどが落ち着くのではないかと予想を立てていたので、三日目に伺うことを決めたのだった。

 そして迎えた3月10日(水)。ゆいるの営業開始時刻は午前10時だったので、自宅から1時間以上かかる僕は8時ごろに起きる予定だったのだけれど、予定よりも2時間早い6時に目覚めてしまった。それほど楽しみだったのだろう。

 時間に余裕ができたので、僕はゆっくりと家事を済ませてから、荷物をまとめて自宅を出た。そして電車に揺られること約1時間。途中で2回の乗り換えを挟み、ようやく浜川崎駅へと辿り着いた。

「なにもない……」

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 浜川崎駅は無人駅だった。駅員はおらず、交通系ICカードをタッチする機械は設置されているものの、改札は無い。そして駅周辺にも何も無い。ゆいるがなければ絶対に来ることは無いと思ってしまうほどの田舎だった。時刻は午前9時45分。そこから歩いて10分弱で、今回の目的地に到着した。

「想像してたよりも立派な佇まいだな〜」

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 店舗の前には、開店を待ち侘びたお客さんが7人ほど並んでいた。僕もその列に並び始めると、それからまもなくしてドアが開けられた。時計を見るとまだ10時になっていなかったのだが、気を利かせてくれたのか、少し早めに開けてくれたようだ。

 ちなみに、「ゆいる」の名前の由来はInstagramの公式アカウントで以下のように語られている。

1つ目は【湯入る】
いつでも湯に入りに来て下さいと歓迎を込めて。
2つ目は【弓射る】
昔の銭湯が「湯入る」と「弓射る」を掛けて
洒落た看板を出していた事から「心を弓射る」意味を込めて。
そして3つ目は【結いる】
4代に渡り繋いできたバトンがこれからも結ばれ続けるように。
人と人との縁を結ぶ湯への想いを込めて。
当初のオープン予定よりも大きく後ろ倒しとなり
先の見えない中、皆様のいいね!や暖かいメッセージ
コメントなど、その一つ一つがスタッフの心を弓射り
気持ちを結び、いよいよ皆様をお迎えする日が
すぐ近くまでやってきたこと、厚く御礼申し上げます。

この御恩を「ゆいる」というこの場所で
おひとりおひとりにお返ししていきたいと思います。

 ゆいるは、店舗が完成するかなり前から、その様子を日々SNSを通じて発信してくれていた。そこには店主ならではの苦労や感動などが赤裸々に綴られており、温もりが伝わってきていた。僕も、その想いをしっかりと受け止めようと思う。

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 僕はさっそく店内に入り、「026(お風呂)」の下駄箱に靴を預けて受付を済ませた。料金は後払いのようで、ここではロッカーキーと館内バッグに入ったタオルセットを渡された。ちなみに、平日の通常料金は大人1,540円(税込)だったけれど、プレオープン期間中は特別料金の1,320円(税込)で利用できるそうだ。僕は軽やかな足取りで階段を駆け上がり、2階の浴場へと向かった。

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 脱衣所は快適に衣服の着脱ができる、ややゆとりのある設計だった。そして、やはりこれから正式オープンを控えている店舗ということだけあり、全体的に清潔感がある。僕は普段よりも素早く準備を済ませて、いよいよ浴場への扉を開けた。

「うおぉ〜! めちゃめちゃ落ち着いててきれいだ!!」

 そこには、源泉掛け流しの温泉が「あつめ」と「ぬるめ」の温度別に二つ設けられているほか、高濃度人工炭酸泉も並んでいた。シックで落ち着いた非日常的な空間に興奮しつつも、僕はまず体を清めて、あつめのお風呂に入ってみた。

「うおぉぉおおおお!!! なにこれ!!」

 加温せずに41℃に保たれたお湯からは、地中の成分が溶け込んだ温泉特有の香りが漂ってきた。そして驚くことに、自然光に照らされて琥珀色に輝いていたのだ。しかも、その手触りはなめらかでとろっとしていて、肌にしっとりと馴染んでくる。これはすごい。
 そこで体を温めてから、次に隣にある「ぬるめ」のお湯に入ってみる。こちらも同じように加温をしていない源泉掛け流しの温泉で、温度は39℃。先ほどよりもやわらかい温度だったので、より泉質をじっくりと味わうことができた。
 体が温まったところでサウナに向かおうとしたが、その前にどうしても炭酸泉が気になったので入ってみる。

「すげえええぇぇぇえええ!! なんだ、この泡は!!! 」

 感動した。今までさまざまな店舗で炭酸泉をいただいてきたのだけれど、正直、過去最高濃度の炭酸だった。市販の無糖炭酸水の中にそのまま沈んだ感覚に近い。それも強炭酸だ。泡が全身を包み込み、どれだけ振り払っても大量の泡が再びまとわりつく。その泡が無限に水面ではじける音も心地よい。温度は31℃の不感温設定。温かいお湯に入った直後だったので少し冷たく感じてしまったけれど、サウナ後に入浴したら快感が得られることは間違いない。

「さて、では行きますか」

 僕は立ち上がり、全身の汗をタオルで拭き取ってから、あらかじめサウナ室のドア付近のフックにかけておいたサウナハットを手に取って、中に入った。

「良すぎる……完全に僕好みのサウナだ」

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 ゆいるのサウナは「メディテーションサウナ」と呼ばれるタイプで、間接照明によって落ち着いた明るさが保たれていた。テレビは無く、そこにはスローテンポなヒーリングミュージックがかすかに流れているだけだ。
 11人前後が入れるほどの広さで2段構成。先客は4人ほど。サウナ室内にある棚の上にはサウナマットが積まれていたので、僕はそこから1枚を手に取り、空いている上段に腰をかけた。
 積み上げられたサウナストーンがじんわりとサウナ室を熱していて、その温度は91℃程度まで高められていた。その静かな空間で7分ほど蒸されたところで、ほどほどに汗をかくことができた僕はサウナ室を出る準備を始めたのだけれど、その時、サウナ室の外からスタッフの声が聞こえてきた。

「このあと、10時30分からオートロウリュを行います」

ーーえっ、もう少し耐えればオートロウリュを体験できるのか!!

 言わずもがな、僕はその場でもうしばらく蒸されることにした。後で知ったのだけれど、ゆいるでは毎時間0分と30分の30分間隔でオートロウリュが行われるそうだった。そして、いよいよその時は訪れる。突然サウナストーブの天井部分の照明が点灯し、それによって神々しさを放ったサウナストーンの上に、パイプから大量の水が噴射されたのである。

「すげえええ!!!!! なんだ、この水の量は!!!」

 ここまで迫力のあるオートロウリュは初めてだった。勢いよく噴射された水が蒸発する音とともに大量のロウリュが発生し、湿度は急上昇して、体感温度がいっきに上がった。僕の体からはさらに大量の汗が流れ出し、心臓の鼓動がより激しくなった。
 それから1分ほど経ったころ、さすがに僕の身体は限界を感じ始めたため、サウナ室を出てすぐ脇にある掛け湯で全身の汗を流してから、目の前にある水風呂の中に沈み込んでいった。

「すげーーー!!! 本当に深い!!深すぎる!!!」

(※動画は女湯側)

 そう、ゆいるの水風呂は関東で最も深く、その水深はなんと150cm。平均身長ほどの男性であれば立った状態で肩まですっぽりと水で覆われてしまう。しかもこの13℃の水風呂、なんと潜ることが公式に許可されているのだ。僕は迷わず、勢いよく冷水の中に深く潜った。

「うおおおぉぉおおおぉおお!!!」

 今までマナーを守り続けて水風呂に潜ったことがなかった僕の興奮は伝わるだろうか。水風呂に合法的に潜れることが、ここまで気分を高揚させるだなんて今まで想像したことすらなかった。
 全身を冷やすことができた僕は、すぐさま水風呂から出て外気浴スペースへと移動した。ドアを開けた先にはインフィニティチェアが2つとサンラウンジャーが1つ置かれており、さらに天井部分には扇風機が設置されていて、その電源は自由に操作できるようだ。

(※写真は女湯側)

 たまたまインフィニティチェアが空いていたので、そこに横たわって目を閉じ、大きく深呼吸をすると、気付いた時には僕の意識は宇宙と一体になっていた。

「最高だ……」

 時間は本当にゆっくりと流れていた。誰にも邪魔されない非日常感。これを幸せと呼ばずなんと呼ぼうか。頭の中はからっぽになっていき、僕の顔には自然と笑みが浮かんでいた。

 その後、僕は内湯で体を温め直してから再びサウナ室に向かった。時刻は10時53分。僕の計算では、サウナ室に入って7分ほどでオートロウリュが始まり、それから1〜2分蒸されることができたらちょうど良かった……はずだったのだが、僕がサウナ室に入ってからほどなくして、再び浴場でスタッフが声をかけ始めたのである。

「このあと、アウフグースを行います」

ーーえええぇぇ!!! このタイミングでアウフグースやってくれるの!? いったいどこまで喜ばせてくれるのか。すごいぞ、ゆいる……。

 新人スタッフたちがアウフグースを練習しているのはSNSを通じて知ってはいたが、まさかその練習の成果を受け止めることができるだなんて運が良すぎる。

 もちろん僕は予定していた滞在時間を超えてサウナ室内に留まることにした。すると、それから数分して「コミヤマ(※たぶん)」と名乗る男性スタッフがサウナ室に入ってくるなり、アウフグースを始めてくれた。挨拶や手つきから、まだアウフグースに慣れていないことはすぐにわかった。でも、その場にいる僕たちお客さん全員に喜んでもらおうと心を込めて熱波を送ってくれていることが伝わってくる。その姿勢に僕の心は揺さぶられた。
 アウフグースを受け終わり、再び水風呂に潜って全身を冷水に包んでから、今度は外気浴スペースではなく隣にある不感温の炭酸泉に体を沈めることにした。

「なんだこれは……」

 さきほど入った時とは全く違う感覚。やはり水風呂によって冷やされた後の不感温入浴は、唯一無二の快感があった。僕の意識は炭酸の泡のように浮遊していき、なにも考えることができなくなってしまった。どのくらいの時間が経過したのかはわからない。とにかく、そのあまりの気持ちよさに、僕はかなり長い間その場から動けなくなってしまった。
 ふと我に返ると、炭酸泉には他のお客さんも徐々に集まり始めていた。本当はもっと長く浸かっていたかったけれど、これは僕だけのものではない。僕はゆっくりと立ち上がり、いったん浴場を出て腹ごしらえをすることにした。

 レストランは1階にある。ここでは「ゆいる特製 すくい麻婆豆腐(1,180円)※ご飯付」と「ゆいる懐かしの昭和プリン(380円)」をオーダーした。

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 注文してから数分で運ばれてきた麻婆豆腐は見るからに辛そうである。さっそく一口いただいてみた。

「かれええぇぇぇええええ!!!www」

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 麻婆豆腐はむせるほど辛く、そして痺れた。そのあまりの刺激にサウナに匹敵する量の汗をかいて体が震え始めるほどだった。しかし、ただ辛いだけではなくコクもあり具材の旨みも凝縮されていて、どんどん食べ進められる。もちろん白米との相性も抜群で、あっという間に完食してしまった。

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 プリンも本当においしかった。卵の滋味深い味わいと風味、ほどよい甘み、そして密度の高いどっしりとした食感に、なめらかな舌触り。そこに合わさるのは、ほろ苦いカラメルソース。完成度の高い……いや、高過ぎるプリンだった。「源泉掛け流しの温泉とオートロウリュのサウナと水深150cmの水風呂に入れるプリン屋さん」だと錯覚してしまうくらい、これを温浴施設の中だけに留めておくのは本当にもったいないと思ってしまうほど、満足度の高い逸品だ。

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 ランチを完食したあとは、3階の休憩スペースで過ごすことにした。ここには漫画や雑誌が豊富に揃っていて、横になりながらリラックスして過ごすことができるようになっている。

 そこでゆっくりくつろいでいると、時刻は13時半に。もともと5時間コースで入館していたので、タイムリミットまでは残り90分である。僕は再び浴場に移動し、さらにサウナを2セットいただいてから、ゆいるを後にした。

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 昨今の社会情勢下において、閉店を余儀なくされる温浴施設は後を絶たない。ただ、このような状況において新たな挑戦をする人もたくさんいる。僕はそういう人を応援する文化が当たり前になって欲しいと思っているし、このnoteを通じて、一人でもゆいるに足を運ぶ人が現れるなら本望だ。

(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ

※2021年8月3日追記:水風呂について、天然の地下水を汲み上げて使用していると店舗側から説明があったのでそのように記載しておりましたが、2021年8月9日までは水道水を使用していることが店舗側から公表されたため内容を一部修正いたしました

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#連続サウナ小説 『ボッチトーキョー』byナオト
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます