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クライアントさんのひとつに猫の生活用品を扱う企業があります。ここ数年の猫人気は凄まじいものがあります。この会社は比較的、新興企業といってもよいかと思いますが、おそらくこの企業が「猫の生活」をがらりと変えました。それまでの同業他社が猫も犬も同様に扱うようなグッヅを販売する中で、このクライアントさんは猫専門。猫に特化した製品をかれこれ10年も前から製造販売してきました。その思想もユニークで「猫ファースト。猫が快適に過ごせること」を掲げています。通常、ペットとは人間の愛玩動物でありグッヅは猫以上に「飼い主が快適に過ごせる」ことを念頭にデザインやユーザビリティを決める。または同じ機能であればより買いやすい値段にするために、例えば製品の素材などもより安価で競争力のあるものを使うものです。しかしこのクライアントさんでは人間以上に猫が使いやすいか、安全か、快適で幸せに過ごせるかを念頭にスペックを決めます。そのようなふうですから、ペット用品という古い業界にあって急成長を遂げました。なにより「猫ファースト」という思想や姿勢に共感する飼い主さんがどんどんファンになってくれて、その数はいまでも増え続けています。

このクライアントさんを見ていると、ファンベース経営という言葉を思い出します。文字通りブランドのファンをベースとした経営スタイルです。そのコツは「自分たちが日常でやっている丁寧な仕事をファンである既存顧客に伝えていく」です。お金のかかるようなことではありません。顧客にとって本当に良いと信じること(この場合は「猫にとって」でもよいでしょう)を愚直に提案していくだけです。するとブランドに共感する「類友」が集まってくる。やがて類は友を呼び、ブランドのファンは確実に増えていきます。「ブランド・ロイヤルティが高い人たち」というよりもファンというほうがしっくりくる感じがしています。 ブランドとファンはある意味、目線が同じでどちらが上とか下とかありません。自然体で付き合っている感じです。おそらくファンもロイヤルティなどという大層な「熱」は持っていないでしょう。それよりは「このブランドがあると機嫌がいい」というレベルかと思います。

ブランディングにおいて、ファンベース経営はいまや王道的なポジションを占めています。というのも、最近では「集客」「囲い込み」「刈り取り」などの言葉はあまり流行らなくなっているように感じるからです。これらの言葉は、そのニュアンスにどこか企業の利己的な本音が見えるようです。おそらく昨今の吉野家「舌禍事件」をきっかけに、生活者もマーケターも、顧客を「売上」や「カネ」にしかみないような態度や言葉を意識するようになったのではないかと思います。生活者もマーケターと同じメディアに接しながらマーケターの言葉を理解しています。つまり、いまは企業であれ顧客であれ、人としてのつながりの中でいかに良い関係を作れるかにブランドの価値がおかれる時代なのだと思います。

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