水野与志朗/ブランドコンサルタント、ビジネス書の著者

有名食品メーカーや海外企業のブランドマネージャーなどを歴任。それまでの経験をまとめた書…

水野与志朗/ブランドコンサルタント、ビジネス書の著者

有名食品メーカーや海外企業のブランドマネージャーなどを歴任。それまでの経験をまとめた書籍「ブランド・マネージャー」の出版をきっかけに2005年に独立。200以上のブランドをコンサルティング。 https://www.bmwin.co.jp/index.html

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ブランドステートメントって何かの役に立つのか?

ブランドステートメントなんて、別にいらないと思っている人がいるかもしれませんね。実際、なくても会社は回るし、利益も上がるかもしれない。「毎日の仕事に追われていると、理念や価値観を考える余裕なんてないよ」。そういう気持ちもよくわかります。事実、短期的にはなくても何も困りません。でも、実は長期的には大きな問題が起こりうることをご存じでしょうか。今日はこんな話をしましょう。ステートメントがない企業は、目先の利益を優先して、その一瞬はうまくいくかもしれないが、その結果、顧客や社員の信

    • ブランドの25年。消費者とブランドの進化

      現代のブランドを考えるとき、2000年代以降、消費者のニーズがどのように変わり、それに応じてブランドがどのような戦略を取ってきたかを振り返るのは意義深いものです。それぞれの時代における社会的な背景や技術の進化、そして消費者心理の変化が、ブランドの在り方に大きな影響を与えてきました。そしてその流れは現在に続いています。今日は僕の独断と偏見(!)で「ブランドの四半世紀」を俯瞰してみましょう。 2000年代はブランドにとって「体験」が重要視されるようになりました。この背景には、イ

      • 時代の変化を捉えたブランド再定義の成功ポイント

        真田広之さん主演のドラマ「SHOGUN」がエミー賞を受賞しました。日本の戦国時代を描いたこの作品が米国で高く評価されたことは、過去のヒット作をリメイクし、現代の多様な価値観や技術を取り入れることで新たな成功を収めた好例です。今回はこの事例をベースにブランドの再定義・リメイクについて考えてみましょう。 この事例から学べるのは、ブランドが時代に合わせて新たな価値を提供する「視点の変化と多様性への対応」が欠かせないということです。オリジナル版「SHOGUN」は英国人視点で描かれて

        • アンブレラかレバレッジか?ブランド戦略の選び方

          ブランドアンブレラ戦略は、多様な製品を一つのブランドの下にまとめて展開する手法として知られています。それによって新製品の市場導入コストをあまりかけず、かつ認知されているブランド名を冠することで新製品の成功率を高めるのが目的ですね。しかし、一見するとアンブレラ戦略に見える取り組みが、必ずしも本来のアンブレラ効果を発揮できるわけではないケースもあります。さらに、アンブレラ効果がなくても別の形で成功を収めることがあります。 サントリーのザ・プレミアムモルツ(プレモル)は興味深い事

        ブランドステートメントって何かの役に立つのか?

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        • ブランド&マーケティングの教科書コラム
          108本
        • 水野与志朗の徒然コラム
          52本
        • 動画講座
          2本

        記事

          作り手がワクワクしないアイデアに顧客がワクワクすることはない。

          8月24日の日経新聞に出ていた中村修二教授のインタビュー記事を興味深く読みました。中村教授は青色発光ダイオード(LED)の研究で有名です。「日本でイノベーションが生まれない環境の背景にあるのは、特に大学の研究室発のスタートアップが日本で出てこないことだ。米国の工学部の教授は基本的に起業を経験した人がほとんどで、1人の教授が5社ほど創業する。企業の技術顧問のようなこともする。私の3社は少ないほうだ。米国のスタートアップで働く人たちのインセンティブは大企業とは全く違い、成功しよう

          作り手がワクワクしないアイデアに顧客がワクワクすることはない。

          ChatGPTと仲良くなるために

          先日、日本能率協会さんから「ChatGPTを使ったブランド戦略構築についての公開セミナーをやってくれないか」との依頼を受けました。大手消費財メーカーのマーケティング担当者向けということもあり、僕も少し気合が入っています。しかし、まだまだChatGPTを使い始めたばかりの方も多いと思いますので、セミナーに向けてChatGPTに慣れるための前段階として、今回は僕とChatGPTとのやり取りを面白おかしく紹介したいと思います。 セミナーの準備をしていたある日、ふと「Her」という

          成功事例を当事者から学ぶ

          早稲田大学日本橋キャンパスで社会人向けに「ブランド戦略実践講座~成功事例を当事者から学ぶ~」という特別講座が9月から3ヵ月間、6回に渡り開講されます。中央大学名誉教授の田中洋先生の呼びかけで開催されるもので、僕も9月25日に講師としてお話をします。ブランドを実践的に学ぶためには、理論もさることながら、実際にブランドを成功に結び付けた経験者の体験から学ぶことも必要になります。この講座のメリットはトヨタや味の素、花王やリクルートといった大手ブランド企業で実際にブランド実務に当たっ

          ブランドのM&A戦略

          お盆休みもそろそろ佳境に入ってきて、昨日から働いている方もいらっしゃるのではないかと思います。支援先企業からのメールもぼちぼち入り始めています。私たちビーエムウィンも今週は世間並みに休暇を頂きました。一方で仕掛中の調査の集計が終わったこともあり、結局は仕事をしている現実もありました。さて今日は「ブランドのM&A」について話しましょう。「チョコレートバーの「スニッカーズ」やチョコレート菓子「M&M's」を製造する製菓大手の米マースは14日、ポテトチップスの「プリングルズ」で知ら

          ブランドの世界観を理解するにはどうしたらよいか?

          先月、葛飾・柴又を散策しました。帝釈天の参道でランチを頂き、そのまま山田洋二ミュージアム、葛飾柴又寅さん記念館へ行きました。今は亡き山田洋二監督の作品のなかでも「幸せの黄色いハンカチ」が好きです。網走から夕張まで、北海道を高倉健さん、武田鉄矢さん、桃井かおりさんが一緒に旅をする話です。この作品をみたのは、まだ5年生くらいの頃でした。ある日、田舎の小学校に移動式の野外映画館がやってきて、秋の夜に両親とみました。大人になったいまでも、たまにアマゾン・プライムでみます。さて寅さん記

          ブランドの世界観を理解するにはどうしたらよいか?

          実践的な価格戦略を語る。

          日経新聞で英バーバリーが苦境に立っていると読みました。「最大市場の中国で販売が鈍り、2024年4〜9月期は営業赤字に陥る懸念がある。高級感を志向しながらも値引きを続けたことでブランド力が落ち、消費者離れにつながった。欧米の消費も振るわず、約170年の歴史を持つ老舗は苦境に立たされている(日経新聞7月19日)」。中国での不動産市況による景気の低迷や物価上昇で消費者の購買力が落ちているのに加え「バーバリーのようにアウトレット店があるブランドは、正規価格で買うのがばかばかしい。アウ

          わからない時代に答えを見つける。

          先月、支援先企業の「ハイパフォーマンス営業人材の思考特徴」を洗い出す仕事をしました。顧客からの評価(NPS)が高い人材9人を選んでもらい、4時間のデプスインタビューです。このインタビューには支援先企業の「顧客のライフタイムバリューを最大化するにはどうしたらよいか」という問題意識がありました。ビーエムウィンではブランド戦略に限らず、このような問題が持ち込まれます。つまり、欲しいものはわかっているけれど、どうやって達成したらよいかわからない問題。または課題そのものから定義しなけれ

          市場導入戦略とアマゾン

          今日は市場導入戦略について話しましょう。市場導入でよく見られるのが「垂直立ち上げ」と言われるものです。典型的なマスマーケティングの手法で、販売開始時期にマス広告を打ちながら製品の取扱いも一気に高め、導入早々に売上を最高潮に持っていくやり方です。よって生産体制もそれに見合うものにしておく必要があります。「市場は欲しがっているのに、欠品です」を避けなければなりません。需要予測と在庫管理をしっかり行わなければなりません。Eコマースが増えている時代でもこの手法はあり、最近の目新しい事

          情報交換や意見交換がもたらすもの

          ビーエムウィンには相変わらずブランドの相談が持ち込まれています。最近の課題感として、マーケティングマネージャーやディレクター(部長)の方はブランドの価値の再確認やマーケティングプロセスにあるボトルネックの発見と対策。そこには競争環境の変化によってリブランディングが求められていることがあります。一方、ブランド・マネージャーや開発担当者の方はイノヴァティブなコンセプトの開発や、その市場導入戦略の検討など。こちらはより未来志向で創造的なタスクですが、しかしその背景にはこれまでの画一

          自社のマーケティングのクセを知る

          製品が売れるかどうかは必ずしも製品自体の良し悪しが理由ではありません。もちろん製品は良いほうがいい。しかし仮に製品が普通でも売れることもあれば売れないこともあります。つまりそれ以外にも売上要因になるものは複数あって、それらが複合的に絡まって結果に結び付くわけです。ビーエムウィンのコンサルティングでは必要に応じてそれらをゼロベースで検証しています。おおまかに言うと「環境」「戦略」「戦術」「オペレーション」の4つに含まれるいくつかの要因を仮説ベースで「当たり」をつけた後、個別の問

          ブランド・エッセンスについて

          今日はブランド・エッセンスについて話しましょう。ブランド・エッセンスとは「ブランドの本質」と言っても良いでしょう。つまり「このブランドとは何か」ということです。これは言葉で聞くと「なんだ、そんなことか」と思うかもしれませんが、意外と深いものがあります。つまり「本質」とは何かに通じます。本質とは「変わらないもの」です。例えば「水」の本質は「H2O」という分子構造です。水が液体のみならず、気体になっても固体になってもH2Oであることは変わりません。逆に気体や固体、もちろん液体のH

          社内の温度感と社外への伝播

          今回は「社内からの抵抗・否定」について考えましょう。ある中堅支援先企業の人事部長さんから悩みを聞きました。社内がブランディング活動に否定的だというのです。人事部長さんだけにブランディングの目的は採用促進・離職防止となります。「社内、特に中堅層の評判はあまりよくないのです。なんでお金をかけてそんな無駄なことをするのか、今のままでよいではないか、何よりB2Bの我が社にとって意味があるのか」。B2Bの我が社という言葉から、おそらく広告やSNSが彼らの現場仕事とかけ離れていて無駄なこ