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【オランダ移住 vol.36】選択肢があることの幸せと不幸せ

先週から娘の学校が再開された。
オランダの公立校では夏休み明けが新年度なので、新たな学年が始まったことになる。

クラスの人数は15人ほどからグッと減って8人。男子5人女子3人のようだ。

国籍の内訳は…
日本---1人
オーストラリア---1人
トルコ---2人
ウクライナ---1人
シリア---3人
となっている。

7月末の学年末まではここにさらにエリトリアやロシア、クルディスタン(国籍はトルコ)からの子たちもいて総勢15人だったが、そのうち7人が現地校へ移っていったわけだ。

これまでイジメとまではいかないまでも娘によくちょっかいを出していたアフガニスタン人の子がこのタイミングでいなくなったそうで、娘は前よりも楽しく学校に行っている気がする。


けさ娘を学校に送ったときにウクライナ人の子の父親と少し話をした。

たしか気温の話から始まったと思う。
日本はいまめちゃくちゃ暑いうえに台風まで来てるんだと言ったら、彼が「うちの地元も今年は40度近くまで暑くなっているみたいだ」
「え、ウクライナでも?! ウクライナのどこらへんなの? キーウ?」
「いや、ザポリージャ。 知ってる?」
「ザポリージャ…知ってる」
「ロシア軍が50km先にいるんだ」
「え…それは怖いね」
「普段は静かでみんな普通に暮らしているんだけど、たまにロシア側からミサイルがいっぱい飛んで来るんだ」

…なんだか相槌を打つのすら嘘くさくなりそうで申し訳ないけど黙り込んでしまった。
彼にいったいどんな言葉を掛ければいいのだろう。



オーストラリア人のクラスメートは3人兄妹(兄妹弟)だが、特に兄が現地校に馴染むのに苦労しているようで、彼はすぐにでもオーストラリアに帰りたいらしい。

この家族はもちろん難民などではなく、メルボルンで普通の生活を送っていたが子どもたちにヨーロッパでの生活を体験させたいとのことで思い切ってこちらに移り住んできたらしい。

その彼らも今のところの結論は「2年でオーストラリアに帰る」で、やはりいろいろな面で圧倒的にメルボルンのほうが暮らしやすいらしい。

これまで娘のクラスメイトの保護者達と話をしてきたが、難民というかたちではなくオランダに移り住んできた人々のほとんどは「オランダには長く住まない」と言っている。
あくまでわたしの周りの人の考えなのでこれを一般論とする気など全くないが、オランダ移住に関してここに長く留まれるかどうかというのは、こういった移住の理由や家族の置かれた状況に大きく左右されるのではないだろうか。


わたしが15年前にマレーシアに移住してから5年ほどは本当にいろんなことがあった。

事業拡大と言っていた会社が倒産寸前だったり、2年近く観光ビザで働かされたり、従業員に逆恨みされて強盗を送られたり、近所と揉めて警察を呼ばれたり。

今となっては笑い話だが、起こった直後に人に話すとみな口を揃えて「なんで日本に帰らないの?」と聞いてきた。

が、その時のわたしには日本に帰るという選択肢はなかった。
本当に日本で働くのがイヤだったのだ。
35歳くらいで何の資格も経験もない自分が派遣や契約社員として日本で働くのだけは避けたかった。
そのためだったらブラック企業勤務だろうが観光ビザでの不法就労だろうがマレーシアに居たかった。

幸いなことに粘って暮らしているうちに事態は少しずつ好転して結果的に15年近く暮らすことができたが、もしあそこで日本に戻るという選択肢が自分の中にあればもしかしたら途中で帰っていたかもしれない。

人生、本当に何がどう転ぶか分からない。
選択肢が無かったわたしはなんとか踏ん張ってマレーシアでの生活基盤を手に入れたが、逆に選択肢が他にもあれば安易にそちらに流されていたかもしれない。

選択肢がないためになんとか努力し、後から見ればいい結果に繋がることもあるし、逆に逃げ場が無いことで追い詰められることもある。

今の我が家にこの経験則を当て嵌めてみると、もしかしたらオランダからマレーシアに戻る選択肢を選んでしまうかもしれない。
日本?いや、日本はわたしが苦手なので、まだ選択肢ではないです。今のところは。


マレーシア。
15年近く住んで退屈になって飛び出したけど、外から見ると本当に住みやすい国だった。

その住みやすさが時間の経過とともに退屈さに繋がっていったんだろうけど、いざ別の国に移住してみると、マレーシアでは当たり前に思えていた多くのことが他の国では恐ろしく手に入れにくいことに気付かされた。

温暖な気候、安くて美味しい外食、穏やかな(適当な)人々、豊富な教育の選択肢、快適な住環境、控えめな物価、手付かずの自然…数え上げたらキリがない。

ビザだけに絞って考えれば、日本にでもマレーシアにでもいつでも移住しなおせるという選択肢がある我が家。
そんな我が家は、オランダに住み続ける意味をもっともっと深くしっかり考えなければここでの暮らし、特にこれからの長く暗い冬を過ごすのは難しいかもしれない。

夏など無かったかのように日に日に寒くなるオランダでふとそんなことを考えてしまった。
さて、これからどうなるか。

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