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向いている職を探し続けた20代。見えてきたのは一生もののライフワークだった

自分らしく生きるヒントを見つけるインタビュー連載「クロひつじストーリー」。当たり前に囚われず、自分の道を作ってきた様々な人を紹介します。

第2回は造形作家のチグハグさん(33才男性)です。
アルバイトをしつつ、自作のフィギュア造形やイラスト制作を行いながら作家活動をするチグハグさん。
現在やりたいことを優先できていると話す彼も「男性はプライベートよりも出世や仕事を優先する」のが当前だと思い込んでいたといいます。そんなチグハグさんが葛藤の先に見つけた当たり前に囚われず「自分らしく生きる」ヒントとは?

デザイン・制作への「めばえ」

現在主に行っている制作は、​​粘土や木材を素材とした「TEKU(テク)」というオリジナルキャラクターのフィギュアです。

さまざまなコスチュームを着て、人の生活や文化を堪能しているかのような「TEKU」をクライアント一人一人に合った形で作成しています。

TEKU

作る上で大切にしているのは、フィギュアを見た人に「本当にそこに存在している」と感じてもらうこと。なので「TEKU」に台座や支えは作りません。

制作依頼を受けたらまずクライアントの好きなもの、趣味や大切にしていることをヒアリングします。その後、ヒアリング内容をコスチュームのデザインに落とし込みます。

抽象的なテーマだと、デザイン考案が難しい。けれども、その考えている時間が楽しくって仕方ありません。仕事終わりや休日の時間を利用して、ずっと引きこもって作ります。

シンプルなコスチュームだと2週間ほど、複雑なものだと1ヶ月ほど。時間をかけてでも、全て一律で簡単なデザインにするのではなく、一人一人に「世界に一つだけのTEKU」を届けたいという思いで取り組んでいます。

制作の様子

今はこうして制作に取り組めている僕ですが、これまでには様々な葛藤もありました。

京都の大学を卒業後、(着物の)帯屋に就職しました。帯のデザインには少し興味がありましたし、製造にもメインで関われるのかと思っていたら中身は完全に営業職。どうしてもついて行けずに2ヶ月で辞めてしまったんです。

デザインや制作に興味が向いていた僕は、アルバイトをしながらillustration、Photoshopを学ぶためPC教室に通い始めました。そうして、京都のデザイン事務所への再就職が決まります。

入社したものの、デザインに携われる職場ではありましたが会社特有の縦社会制度に全くなじめませんでした。それに加えてだんだん気がつき始めたのは「自分は『自分が考えたデザイン』を形にしたいんだ」という気持ち。

そうして、デザイン事務所も退社をすることを決めます。25歳ごろのことでした。

転職の不安と共に過ごした20代

26歳を過ぎると、世間的には昇進や結婚の話が出てもおかしくない年齢。僕自身「男性はフルタイムで働き、結婚して一人前になる」のが当たり前だと思って生きてきました。なのでこの歳で出世や仕事よりもプライベートを優先するべきじゃないと無意識に思っていたんだと思います。

だからこそ「自分にもなじめる職場があるんじゃないか、そこでうまくやれるんじゃないか」と思い込み、馴染める仕事を探して転職を繰り返しました。

デザイン事務所を辞めた後は、大学生向けのインターンシップ斡旋、設備管理……さらにはいくつかの研究職も経験しました。

どの仕事もしっくりきませんでしたが、特に興味の持てない仕事は辛かったです。悩みを聞かなければいけないポジションにいても、申し訳ないことに心がついていかない。得意な方もいると思うのですが、僕には「〇〇をしてあげなくちゃ」というポジティブなお節介が焼けなくて。自己嫌悪もありながらどうしてもうまく出来なくて、しんどかったです。

一生「ライスワーク」を続けるのか?

ライスワーク(Rice-Work):生活費を稼ぐための仕事
ライフワーク(Life-Work):「生きがい」を感じるための仕事

では何が得意だったのかというとやはり制作で、特に友人のためのプレゼントを作っている時なんかがすごく楽しくて、やりがいを感じるんです。でも、こんな制作をしていても食べていけない。

ならばせめて職業訓練校に通って、器用さを活かせるスキルを身につけて就職しよう。そう考えて学校に通い、コロナ禍を経てやっと製造業の新しい就職先が見つかりました。

しかし、内定が決まってとりあえず一安心と思った矢先に、なんとその企業が撤退することに……。

その時「自分は一体何をやっているんだろう」とハッとしたんです。

これまで選んできた仕事はどれも、食いっぱぐれないために取り組むいわゆる「ライスワーク」。決して楽しさや生きがいに繋がるとは言えません。

せっかくやりたいことがあるのに。たったの1回きりなのに。貴重な「人生」という機会に参加できているのに。それをやらずに、これからも悩みながら転職を繰り返すのか?

そう自分に問いかけた結果、次はあえてアルバイトの道を選び、時間を作って制作と向き合うことに決めました。32才の誕生日でした。

生きがいを選びとる勇気が、自分を自由にしてくれた

制作の上での悩みはつきません。自分の納得のいくものが作れない、そうするとレンタルスペースに納品する作品がコンスタントに仕上げられない、もっと作品を知って欲しい……etc。しかし転職を繰り返していた頃の漠然とした不安や悩みとは違って、向き合う対象が一本化されたので、ずいぶん楽になりました

そうして現在に至るのですが、気がつけば33歳。ここまでくるのに長い時間をかけてしまったなあ、というのが本音です。

昔から図工だけは成績が良く、創作物へのデザインのこだわりも強いタイプでした。そういう片鱗はあったものの、本気で仕事にしようという挑戦はしてこなかった。見方を変えれば挫折がないからずっと続けてこられたのかもしれません。

今思ってみれば、ずっと昔から「自分らしく生きるためのヒント」は自分のすぐそばにあったんですね。

挫折したって良い。途中で「何か違う」と舵を切り直しても良い。大事なのは「楽しそう」と思える気持ちに素直に従うことです。いま人生に迷っている人も、もしかすると既に自分のすぐ近くに「挑戦すべきもの」「選ぶべきもの」があるのかもしれません。

自分らしく生きるヒント

「今の環境が全てではない」

職場を変えるだけでなく、制作に打ち込むため実家も出ました。そのまま暮らしていたら、心配から両親は「良い歳して何してんの」と言うでしょうし、口には出さなくとも所帯を持っている兄と比べられてしまうとも思って。
実家は田舎で、身を固めるのに重きを置く環境なのも分かりますし、両親といえど僕とは生きてきた時代が違いますから全部を分かってもらうのは難しい。
だからこそ、自分らしく動ける環境に身を置くことが大切だとしみじみ感じています。
そうして環境を変えたら、たくさんの人と会って、視野を広げる意識をする。そうするだけでこれまで以上に自由に振る舞えるようになると思います。

これが、長い間迷い続けて見えてきた「僕らしく生きるヒント」。

そのヒントを胸に、もっと自由な思考で、お客さまが楽しい未来を描くきっかけになるような作品を作っていきたいと思っています。

いま同じように悩んでいる人が、環境を変えて少しでも自分らしく過ごせることを願っています。

ライター=小野寺美咲 編集=えりこ

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
チグハグさんの作品はこちらでチェック。

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